居残るお馬さんたち
騎馬の何頭かを置いてゆこう、ということになった。
後から加わった四十頭のなかから、曳き馬にしていた二十四、その前後の二十三と二十五である。二十四と呼ばれるには無論、わけがある。一番どっしりとしているからだ。馬車をよく曳いてくれた。実際、軍時代から曳き馬していた、ということだ。これは、幼子が当人ならぬ当馬から聴取したのだ。
四十頭の名前をつけていった際、その二十四と二十三、二十五が身を寄せ合っていた。だから、その前後の数字をつけられたわけだが、旅の道中も三頭はいつもいっしょだ。ゆえに、馬車を曳くときも曳き馬として二十四と一緒に曳いた。
親子でも兄弟でもないとは、当事者ならぬ当事馬たちから幼子かがきいたのだ。
そして、この三頭が選ばれたのは、二十五もまた馬体がいいし、二十三は牝馬だからだ。
仔を産む馬も必要だ、というわけだ。
残す決断をしたのは、全員で話し合った結果だが、だれが残るかについては、幼子を通じて馬たち自身に決めてもらった。
三頭が立候補してくれた、というわけだ。
人間に異存があるわけもない。が、等しく情の移ってしまっている人間の想いは複雑だ。名をつける習慣のないスー族の二人ですら、寂しさのあまり黒光りする相貌に悲しげな表情を浮かべていた。
そして、驚くべきことが起こったのは、朝食を終え、出発の準備に取り掛かっているときであった。
『利三郎の様子がおかしいだって?』
馬車に荷を積み込んでいる土方に、相馬が小声で告げた。思わず、頓狂な声で復唱してしまった土方を、周囲で同じように荷を積み込んだり、片づけをしている仲間たちが注目した。
『どういうこった?』
声を落としたが、もはや遅い。全員の意識は、たとえ土方と相馬がアイコンタクトでわかりあおうとしても、その心中をよむであろう。
相馬は、両肩を一つすくめてからつづけた。ただし、声量はいつもどおりで。落とす必要はなくなったからだ。
『どうも二十四たちを置いてゆくのが辛いらしく・・・』
『なんだって?』その叫びは、土方だけではなかった。幾人もが同時に、同じ言の葉を叫んでいた。
『そういわれてみてはじめて気づきましたが、利三郎はいつもあの三頭の世話をしていました』
さすがは島田だ。仲間の様子をしっかりと把握できている。
島田の指摘で、土方もその情景を思い浮かべようとした。が、残念ながら自身は気にも留めなかったのでまったく思い浮かばない。
『で、利三郎は?』土方はそうそうにあきらめ、相馬に尋ねた。
『馬房に。おそらく、別れを惜しんでいるのかと』
『様子をみてこよう。息子よ、いってみよう』
土方の言に、島田は口唇を開きかけたが止めた。
こんなこと、大将のすることではない。が、この大将は、別れというものを、失うということがどれほど辛いことかをよくわかっている。他人任せになどするわけもない。
意を察した島田と土方との間でかわされる視線。
土方は、島田にかすかに頷いてみせた。それから、てけてけと駆けよってきた愛息を連れ、馬房へと歩き去っていった・。
『さあ、みな、さっさと終わらせてくれ』
土方にかわって作業の指示をだす島田。
仲間たちも同様のことを思っている。ゆえに、作業をつづけた。相談した相馬も含めて。
その様子を、玄関の修繕された柵にもたれかかり、フレデリック老が煙草をふかしつつ眺めていた。




