お宝発見!
『ほしいものがあったら、なんでももってゆくがいい』
フレデリック老の母屋には、小さいが書斎がある。大小さまざまな本棚が並んでいて。そこには数多くの本が並んでいた。
だれしもが不思議に思ったのはいうまでもない。
『これでも一応は、よみかきはできるのでな。祖父の代から集めた本だ。瞳がよくなくなってからは、本も開けることすらない。ここで腐らせるより、よんでもらえる者にもってってもらったほうが本も喜ぶじゃろう』
その小さな書斎に興味をもったのは、相馬や玉置は無論のこと、ほとんどの者が交代でのぞいた。
本だけでも多岐に及んだ。そのほとんどが、これはフレデリック老らしく、天体に関するものが多いが、童話や、はては料理のレシピ集のようなものまである。
『おいおいおい、これをみろよ』
永倉の叫びが、家屋内のすみずみにまで走っていったのは、ほとんどの者が書斎を見学し、気に入った本を得たした頃だった。その時点で、まだ書斎をみていなかったのは、「三馬鹿」と土方親子、柳生親子、白き巨狼だけだった。というか、なにゆえか白き巨狼まで書斎にいた。
スー族の二人やジム、ケイト、フランクにスタンリーもまた、書斎か、あるいはほかのところからなんらかの品を得ていた。
『なんてこった!あぁ神様!』
『畜生!神様よ』
永倉の叫びにつづき、原田と藤堂の系統の違う神を讃える叫びが・・・。
『系統が違うばかりか、地獄か神か、どっちだと申すのだ、槍遣い?』
原田の言の葉の揚げ足をとる白き巨狼。
『いったい、なんだってんだ、「三馬鹿」?他人様のお宅で、無作法な真似はやめやがれ』
土方の眉間に濃く深く刻まれた皺。その機で、すでに物色を終え、居間や台所にいた連中までもが駆けつけてきた。
『副長、こりゃぁ、あんただって冷静ではいられねぇはずだぞ。師匠、あなたもだ』
『もったいぶりやがって・・・。みせてみやがれ』『ほう・・・』
土方、そして、その義理の兄、それぞれの表情で、永倉の分厚い両の掌にあるものをのぞきこんだ。
それは、本、というよりかは紙の束を紙縒りでまとめたようなものであった。書斎に置かれた灯火の淡い光のうちでも、黄ばんでいるのがわかる。
土方もその義理の兄も、なかをのぞきこむ前から、その紙が和紙であることに気がついていた。
『おお!神よ』
なにゆえか、同業他神を敬う厳蕃の表情は、ここ最近ではみたことがないほどはなやいでいた。
そして、さらに叫びが・・・。
『父上、父上、ここにも・・・』
本棚の一番下から、さらなる紙の束をひっぱりだしてきたのは、土方の息子だ。小さいのでみつけられた、といったところか・・・。
父親にさしだされたそれは、最初のよりは薄いが、同じくらいに黄ばみ、古いものだ。そして、それもまた和紙によるものだった。
息子から受け取り、束を開ける土方。それをのぞきこむ土方の義理の兄。
『うおおおおおおおおっっ!』
その「鬼の副長」の雄叫びは、これまでだれもみたこともきいたこともないほどのもので、これ以降、ついぞみることもきくこともなかったものだった。
全員、この世紀の一瞬を瞼に焼付け、生涯、忘れなかったという・・・。
永倉が発見したのは、春画だった。
土方の息子が発見したのは、句作集だった。
どちらも、フレデリック老はあることすら知らなかったという。
出所不明のそれらは、お宝といっても過言でない発見だ。
無論、永倉も土方もそれぞれいただいた。
そして、この経緯を目の当たりにし、ほくそ笑むものが一人・・・。
悪魔のごとき微笑みが、廊下の暗がりに浮かび上がっていた。そのことを、すっかり興奮しきった土方や厳蕃たちは、気づくはずもない・・・。




