ギャンブルとコン・マン
『これは、賭け事じゃない、ただのお遊びだぞ、サノ・・・』
スタンリーが当惑したようにいった。
宴会のごとき夕食後も、一行はフレデリック老と過ごしたがった。ゆえに、場所を屋内へと移し、話をしていた。そこでふと、スタンリーがカードゲームをしようと提案した。それは、ポーカーなる賭け事などではなく、ジョーカーを引いたら負け、という単純な遊びである。いわゆる、ばば抜きのことだ。
これなら、フレデリック老も参加できる。教育上も悪くない。
カードは二組ある。ゆえに、二組に分かれて、と相成った。と、そこへ、この漢、「永遠の賭博師」たる原田が、ここでも賭け事にしようとする。
『わかってる。だが、ただの遊び、にしちまうにはもったいねぇだろう?』
全員が思った。なにがもったいないのか?、と。
『神様方よ、勝負だ』
そして、これもまた毎度の展開である。不遜にも、神様方に挑戦状を叩きつける原田左之助。
『いいかげんにしやがれ、左之っ!』
土方が切れた。さいわいにも、室内に動物はいない。いや、いた。白き巨狼と朱雀だ。朱雀は、お使いを終え、暗くなるまでに戻ってきていた。
一頭一羽は、土方とは付き合いが長いし、そもそも動物としての自覚がない。それもそのはず、白き巨狼は神であるし、朱雀は新撰組の一隊士なのだ。ゆえに、すべての動きを封じる「鬼の怒鳴り声」の効果はない。
『てめぇっ、どんだけ神様方に挑戦すりゃ気がすむんだ、ええっ?どんだけ負けりゃ気が済むんだ、ええっ?どんだけ恥をかきゃいいってんだ、ええっ?』
『なにいってるんだ、副長っ?神様方は好きなんだよ、賭け事がよ。この味を知っちまったら、神様ですらはまっちまうんだ』
原田も切れた。なにゆえ理解してくれぬのか?人生こそが賭け事だ。それがわからぬのは、そして、理解しようとしないのはうつけ以外のなにものでもない。
土方だけでなく、神様方の眉間に皺が寄った。
『なんだ、いったい、神様方とはどういうことだ?』気の毒に、フレデリック老はうろたえた。一応は神を信仰している。一番近い町の教会に、月に一度か二度ではあるが礼拝にいく。その神様がいるというのか?
『まぁ神父?いえ、牧師ってやつかな?』『いや、天使じゃないのか?』『いいや、神の使いじゃないのか?』
永倉、藤堂、斎藤が説明したが、どれもしっくりこない。
『ああ、神を騙る者でいいんじゃないですか?』
と、沖田。刹那、『詐欺師みたいに申すな!』と文句をつける神様方。幼子などは、言の葉の先生に悲しそうな眼差しを送っている。
結局、原田のすべてが否定され、和気藹々とばば抜きは行われた。
日ごろ、表情の乏しい者ほど愉しませてくれた。わかりやすいのだ。ばばを引いた瞬間が。
斎藤がもっともたるものであることはいうまでもない。
そして、フレデリック老との最後の夜は更けていった。