柳生が斬る
『つぎはいったい、どんな奇跡をみせてくれるというのかね?』
亜米利加人というのは、じつに柔軟で物怖じせず、なにより諧謔的だ。
フレデリック老もまた、その多くの例に漏れず、この異国人たちの奇天烈さに、なんの苦もなくついていけている。
その証拠に、皺だらけの相貌を輝かせ、わくわくしている様子で尋ねている。
『みてのお愉しみ、というところですね』
永倉は、老人にそう告げてから土方に向き直った。
『おいおい副長、ここは柳生一族に素直に任せりゃいいじゃねぇか?ええっ?なにを腐ってるんだ』
『腐ってなんかねぇよ・・・』土方は気色ばんだ。事実を指摘されたときにみせる、多くの者と同様の反応だ。
『「豊玉宗匠」は、妻子が柳生一族っていわれたことが気に入らないんでしょう、新八さん?』
にやにや笑いの沖田だ。「鬼の一睨み」が即座に飛んだ。
「副長、あんた、柳生に婿養子に入ったのか?」
声を潜め、日の本の言の葉で尋ねる永倉。
「そんなわけねぇだろうが?」応じる土方もまた、同様におなじ言語で、しかも小声だ。
「なら、柳生一族であってるじゃねぇか。あんたの奥方もあんたの息子も柳生の血をひいてる。が、あんたはひいてねぇ・・・。ありゃ、血もあるぜ、副長?だから気にすんな。あんたもそのうちできるようになるさ」
「新八・・・」土方は、その慰めにいたく感動した。自身の死を願っているだろう、とあれほど責めたてたことを後悔までした。
「まぁ、五度ほど生まれかわれりゃあ、あるいは、なにかの賭けで勝って、神様方に願いでも叶えてもらえりゃあの話だろうが、な」
永倉にはまだつづきがあった。
どちらも無理じゃねぇか・・・。土方は、悲しくなった。が、なにがなんでもできるようになろう、という意欲は不思議とない。
永倉のいうとおり、適材適所だ。自身は、自身のできることで役に立てばいい・・・。そう思うことで、信じることで自身を慰めた。
披露する者たちは準備を整える。同時に、幼子は畜舎などをまわって動物たちに銃の音に驚かぬよう、ふれ回った。
かくして、厳蕃、厳周、信江、幼子は、スタンリー、フランク、山崎、玉置の撃った銃の弾丸を、見事両断してのけた。
信江は夫の「千子」を、幼子は、此度はくないではなく、斎藤の「鬼神丸」を借りた。
四人が並んでの居合い抜きは、さしもの剣士たちをも魅了した。
そしてやはり、狼神を育ての親にする幼子は、一人瞼を閉じたまま、山崎が連射した弾丸を、縦横に斬ってのけた。
それは、もはや神をも超える所業だ。
厳密には、辰巳の技量である。
フレデリック老だけでなく、仲間たちも興奮して喝采を送っているなか、厳蕃は弾丸だったものを地より拾い上げ、それを四本しか指のない掌の上に転がし魅入っていた。
いったいどこまでゆくのか・・・。武人として、というよりかは人間として、この将来、辰巳はどこまでゆき、どこにゆきつくのか・・・。
厳蕃にはわからない。
原田に肩車されている辰巳と視線があった。
その両の瞳にある暗いなにかは、厳蕃に焦燥を与えるとともに、ぞっとさせるものがあった。
それは、蒼き龍などとは比較にならぬほど、得体のしれぬなにかを秘めているような、そんな錯覚すら抱かせた。




