Let's pull out a big rock!
鉄鎖の数にはかぎりがある。ゆえに、順番にひっぱることとなった。
まずは、島田、玉置、斎藤、沖田、野村の五名が挑戦する。
ほかの者が、それぞれの肩に丁寧にタオルを置いてから鉄鎖を巻いてやる。
『よいか、腰をしっかり落とすのだ。中途半端だと腰を痛めてしまうからな。以前、瞬発力の話をしたのを覚えているか?私もこの子も、でかい熊やバッファローと力比べをできるのは、ひとえに集中力と瞬発力とがあるお陰だ』
厳蕃は、そう説明しながら五名それぞれの前に立ち、それぞれの相貌をのぞきこんだ。
瞳、それから顔色から体調を推し量ってゆく。
『それと、五名の絆だ。一人一人の力より、五名のそれのほうがはるかに強いのはわかるな?力のかけ方一つとっても違ってくる。点在しているより、集中しているほうがはるかに強くなる。いま一つ、けっして無理はするな。掌や肩の皮が裂けるばかりか、骨、腱、肉、すべてに支障をきたす可能性があるのでな。では、わたしのかけ声ではじめよ』
それから、厳蕃はしばしの間をおいた。五名が気の充実をはかれる間を与えるためだ。
『準備はいいか?・・・では、はじめよ』
かけ声とともに、五名が同時に鉄鎖を引っ張った。ぴんとはられた鉄鎖。すさまじいまでの集中力と気の充実・・・。びりびりと、大気すら揺るがしているのを、だれもが感じていた。
だが、大岩はびくともしない。
『よし、よくやった。しばし休め。再度、挑戦してもらう。つぎの組だ』
「うっしゃ、やってやるぜ」
日の本の言の葉で気合を入れるのは、無論、藤堂だ。華奢な体躯ながら、しっかりと筋肉がついている。
相馬、山崎、田村、伊庭がつづく。
準備完了の後、やはり厳蕃はしばしのときを与えた。
『では、はじめよ』
こちらも一組目と同じようにひっぱる。が、やはりびくともしない。
『ちぇっ!、残念。でも、つぎこそは、だ!』
さすがは藤堂、前向きな努力家だ。
三組目は、永倉、原田、市村、厳周の四名だ。
『はじめよ』
気の集中の後、四名は同時にひっぱった。
これまでの組とは違い、気も集中力も半端がない。
「みし・・・」大岩がわずかに軋んだような気がするのは気のせいか・・・。
それを三順繰り返したが、やはり最後の組の際に大岩が軋むささやかな音がするだけで、よもやまことに引き抜けるのか?と首を傾げたくなってくる。
『さあ、いよいよわれらの出番だ。わが義兄よ、それからわが甥よ・・・』
そしてついに、厳蕃が宣言した。
『おいおい、このなかで最強にして崇高、あまつさえ最優美ある獣神を忘れてはおらぬか、子猫ちゃん』
その宣言にかぶせ、ずいと進められた白色の四肢・・・。
そう、この白狼、この神を忘れてはならない。