表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

315/526

大岩と野獣

『これもまた大きな岩だな・・・。まさか、これも例のメテオライト?』

『馬鹿いえ、平助、こりゃただの岩、ここにもともとあるもんだ。ねえ、そうでしょう、フレデリック?』

 原田が尋ねると、フレデリック老は悲しげに頷いた。

 それは、玉蜀黍畑の近くにあった。

 昔は荒れた土地だったのだろう。その名残がいまだに残っていた。この大岩のせいで、フレデリックの父親もそのまた父親も、この周囲で作物を育てることができなかった。無論、草もはえるわけもなく、家畜を放牧することもできない。

『老いた牛馬では、これを牽引して動かすこともできん。たとえ動かすことができたとて、これだけ大きけりゃ、この場からどうすることもできん』

『フレデリック、せめてあの高台まで移動させれば?』

 厳蕃が指差した先は、草も木もはえていない、土が盛り上がったようなところだ。そこなら、大岩があっても不便ではないだろう。

『まあ、あそこなら、邪魔にはならんが・・・。馬たちに曳かせるというのかね?』

『まさか!』

 厳蕃はふわりと笑った。『馬たちに負担はかけたくないですからね』その答えをタイミングに、永倉ら「三馬鹿」が全員に呼びかけた。

『さあさあ、お立会い。われこそは、という力自慢はいるか?最高の鍛錬になるぞ』

『よし、だれが一番の力自慢か、賭けようじゃないか?』

 永倉は兎も角、原田はあいかわらず、である。まったく懲りない「永遠の賭博師エターナル・ギャンブラー」だ。

『よし、やるか』意外にも、一番に名乗りをあげたのは沖田だった。『おれも』『わたしも』とぞくぞくと参加を申しでる。それを眺めながら、永倉は満足げに頷いた。

『師匠、というわけで、全員参加です。どうです、例の流派の研究も兼ねて、こつを伝授してくださいよ』

『無論だ。ニックの農場の木の根とは比較にならぬが、これだけいればできぬことはないだろう・・・』

 そして、永倉以上に満足げな表情かおの厳蕃。全員の師としては、こんな突拍子のない挑戦チャレンジに挑もう、という弟子たちの心意気が純粋にうれしくなる。

『どういうことじゃ?なにをする・・・』

『フレデリック、かれらは、かれら自身の力でこの岩をどうにかしようというのですよ。鎖はありますか?多いほうがいい。それとタオルも・・・』

 さすがはスタンリーだ。日の本ジパングおとこたちの意図をよんでいる。

『納屋にあるはずじゃ。錆びついているだろうが・・・』

 フレデリック老の答えと同時に、フランクとジム、スー族の二人がすぐに取りに戻った。

 そう、かれらはやる・・・。スタンリーにはわかっているのだ。


 事情をきいた土方、それから信江とケイトがやってきたとき、全員が上半身裸になり、ありったけの鎖を岩に結びつけ、準備を終えたところだった。

『あれ?「豊玉宗匠」もやるんですかー?』絶対にやらないと踏んでいるのだ。にやにや笑いながら、沖田が尋ねた。全員が注目した。『やるわけねぇだろう、馬鹿総司』の答えを待つ。

『無論だ』いうなり、土方はシャツを脱ぎだした。

 ざわめいた。動揺まで走った。

『おいおい副長、無茶するなって。いつもいってるだろう?動くのはおれら、あんたはでんと構えててくりゃあいい。無茶して腰でも痛めでもすれば・・・』

 永倉がしごくまっとうなことをいいかけ、なにゆえか中途で言をきった。

『できねぇだろうが・・・』そして、口中でつづけた。つぎは全員が永倉をみた。土方も含めて、だ。

『なに?できねぇってなにが、新八兄?』きこえなかったその言を、よんだのだろう、市村が声高に尋ねた。それから、両の掌をぱんと打ち合わせ、『そうか、腰を痛めたら歩くことすらできないよな、うん』と、あいかわらずずれた解釈を述べる。

『だいぶんと違うと思うけど、鉄?いまのは、野獣ビースト系の意味だよ』『えっ?野獣ビースト?どういう意味、総司兄?』市村を含め、混乱する若い方のヤング「三馬鹿」。

 そのとき、『馬鹿いってんじゃねぇっ!』と、無論、土方が怒鳴った。その怒鳴り声は、風に乗って農場を駆け巡った。それは、放牧している牛馬に届いたであろう。そして、その動きを封じたであろう。

 その直後に吹かれた指笛もまた、風に乗って駆け巡った。無論、野獣おにの息子のものだ。


『さぁ弟子たちよ、はじめるぞ。義弟よ、やるからには容赦はせぬぞ』

 何事もなかったかのように、否、野獣ビースト系の話題のとばっちりがくる前に、厳蕃は土方を含めた全員に宣言したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ