フレデリック老の農場
誤解はとけた。
そうなると、老人はうってかわって一行家に遊びにこい、となかば強引に誘った。
りんごの実を、やりたい放題盗みまくったてまえ、その誘いを断ることなどできるわけもない。
老人は、名をフレデリック・パターソンといった。代々、この地で農業をしているという。だが、フレデリックは家族がいなかった。正確には、妻は若い時分に病で死に、息子は戦争にいったまま戻ってこないと。戦争とは、むろん南北戦争のことである。生きているのか死んでいるのかすらわからず、フレデリックは、父親として息子が生きていることを願い、切望している。戻ってくるまで、この農場は意地でも護りきらねばならない。たとえ、這ってでも・・・。
ゆえに、いまだ現役でがんばっているのだ。しかも、年老いてゆくのは、なにも自分だけではない。農場の動物、それに、物だって劣化してゆく。
なにもかもが古くなった。買いかえようにも、悲しいかな、それだけの蓄えがない。正直なところ、ほぞぼぞと生きていくだけでぎりぎり、なのである。
老人の農場は、農場というにはあまりにも農場っぽくない。農場かそうでないかを隔てる木製の柵さえ、柵かどうかわからぬほど老朽化している。
それは、家屋も同じだった。
母屋、畜舎、納屋・・・。どれをとっても、いまにも崩れ落ちてしまいそうだ。実際、母屋に入った途端、床が悲鳴を上げ、畜舎の梁からはぱらぱらと木屑かなにかわからぬものが落下してきた。
そして、老朽化しているのは無機物だけでなく、家畜も同じだ。すでに会った騎馬は無論のこと、放牧されている数少ない牛馬も老いてよぼよぼだった。農場内であろう草地をふらふらと歩くさまは、ひとえに憐れを誘った。
『先を急いでいるのはわかっちゃいるが、勝手にりんごをとってしまった詫びに、どうだ、せめて家屋くらいは修繕しちゃあ?』
そんな提案をしたのは、意外にも永倉だった。母屋の前で、腕組みし、左右にほかの二馬鹿を従えながら、だ。
『イスカ、ワパシャ、気が急いているのはおれたちも理解しているのだが・・・』
土方は、老人から距離を置いたところで控えているスー族の戦士たちに近寄ってから打診した。
『トシ、大丈夫。数日くらいたいしたことはない。それよりも、ここは、われわれにできることをすべきだ』
呪術師が快くいうと、ワパシャも同様に頷いた。それから、二人はさっそく家屋の状態を詳しく調べはじめた。
『さぁみな、とっとと済ませてしまうぞ。動け動け!』
土方が掌を打ちあわせながら怒鳴ると、全員がきびきび動きだした。
フレデリックは喜んだ。そして、うまいものを喰わせてやるといい、信江とケイトを連れ、台所にこもってしまった。
わいた。一行は盛り上がった。どんなうまいものか?そんなことを予測しながら、家屋の修繕、家畜の状態のチェックなどを、きびきびと進めてゆくのだった。