賞金の行く末
日の本流にいうと、全員お縄についた、といったところか。「近藤四天王」によって気絶させられた者たち、若い方の「三馬鹿」によって気絶された主犯格三名、意識があろうとなかろうと、等しく捕らえられた。無論、ピンカートン探偵社の探偵たちにぬかりなどあろうはずもなく、事前にコリドンの街に援軍を求めていたので、街やその周辺にいる保安官や保安官補たちが、大挙して駆けつけたのだった。かくして、ジェイムズ・ヤンガー強盗団は、異国からやってきた武士たちによって、御用、とあいなったわけだ。
まさかこのとき、街までの道中に強盗団がまんまと逃げおおすなどと、探偵たちや 保安官たちにわかろうはずもない。
が、それはまた別のお話・・・。
『心から感謝します』
後世、そのあざやかな手腕のおかげで有名になる探偵は、去り際、土方にあらためて礼を述べた。
『賞金は、打ち合わせどおりニューヨーク市立ベルビュー病院のドクター・グリズリーに預けておきます』
『一部を除いて、ドクターの采配で役立ててほしいと・・・。それよりも・・・』
全員で話し合った結果、賞金のほとんどを寄付することになった。ニックは、亜米利加にいない。ドン・サンティスはマフィア、つまり犯罪組織の親玉だ、ともに託すには難しい。そこで、ニックの義理の兄であるドクター・グリズリーに頼むことにした。市の病院に勤めている外科医なら、土方らの期待に応え、うまく活用してくれるに違いない。
そして、一部というのが、土方をはじめとした長老格になにかあった際、妻と子どもらが当座の費用にする分であり、亜米利加の民である黒人のジムやケイト、フランクにスタンリーの為の分なのだ。
強盗団がコリドンの銀行から奪った金が、その一部として支給されることになった。ゆえに、その金に関しては、全額をスー族の二人に渡す。
『それよりも・・・』土方は、金よりも頼んでおきたいことがあった。
『もちろん、わかっていますよ、どうかご安心を』
探偵ジェームスは、にっこり笑った。
『なにかあれば、必ず寄ってください。政財界にコネがありますし、なにより、われわれの社長はかわり者です。あなた方のことをおおいに気に入るでしょう。ピンカートン社の誇るネットワークで、あなた方を支援いたします。もちろん、それは、あなた方一行のだれをも、という意味でです。ああ、それと、二度とみることのない奇跡をみせてもらったこと、これについても心から礼を申します』探偵は、にっこりと笑っていった。
最後の奇跡とは、弾丸斬りであることはいうまでもない。
そして、土方や厳蕃がさらに頼みたかったことは、黒人であるジムの行く末であった。本人がニューヨーク、あるいは違う都会にでもいき、新たな一歩を踏みだす勇気をもてたとき、職や住居といった生活を支援してくれる、いわば後ろ盾の役目である。
探偵は誠実だ。すくなくとも、いまこの時点でその心中に嘘はない。すべてを頼み託してみても損はないだろう。
このとき土方は、探偵と話をしながら生き残る、否、自身らになにかあっても絶対に傷一つさえ負わせるつもりのない者のなかに、土方自身の息子が入っていないことに、あらためて愕然とした。
探偵たちは、別れを惜しみつつ街へと去っていった。
さて、土方にはまだやることがある。こっぴどく叱ってやる、ということだ。