早撃ち対居合い抜き
肩を並べていなかったので、ジェイムズ兄弟の弟ジェシーは、餓鬼の抱擁から免れることができた。が、兄のフランクとヤンガー兄弟の長兄コールのそれぞれの頸に腕を回した餓鬼が、その両者の間にぶら下がっている。
ジェシーは唾を呑み込んだ。土煙を吸い込んだのか、口中はやけにじゃりじゃりしている。
街でみかけた。そのとき、この餓鬼は、歩道に大の字になって泣き叫んでいた。歩けないから抱いてくれと、父親にだだをこねていた。
それが、いままさに大の漢二人の頸に腕をまわし、ぶら下がっている。その餓鬼が、あの餓鬼と同じだというのか?それともこれは、悪魔憑きなのか?
そう考えていると、眼前の餓鬼がジェシーをみた。まさしく悪魔に憑かれた人間のように、不気味な笑みが可愛らしい相貌に浮かんだ。
『いいえ、わたしは悪魔そのものです』
考えていることがわかっている。悪魔、そう、これはもう悪魔に違いない。
ジェシーも兄のフランクも、バプテスト派の牧師の子として生まれ育ったので、神に対する敬虔さと悪魔に対する怖れは人並み以上にあった。
そのとき、ぶらぶらしていた餓鬼の両脚が、振り子のように二度三度と強盗たちの間で揺れた。かと思うと、その両脚がジェシーの頸に絡みついた。ジェシーの口中から息が一気に漏れでていった。両脚は、すさまじい力でもってジェシーの頸をぐいぐい締め上げてゆく。
『あなた方を狩るのはわたしの役目ではない。その掌にある拳銃で、わたしの兄たちと戦いなさい』
餓鬼の囁きは、強盗三人に精神を揺さぶった。闘争心を煽ったのだ。囁きが終わったと同時に開放された。餓鬼の姿が掻き消えたのだ。三人は、間髪入れずに掌にある拳銃の引き金を引いていた。フランクだけは一丁遣いだが、残る二人は二丁遣いである。
「パンパンパン」はじかれた音。三人は、眼前にいる小柄な漢に撃っていた。
しばしの沈黙。普通なら、この沈黙の間には倒れるはずが、漢はわずかに腰を落とした姿勢のまま平然としている。そして、この漢の相貌にも、不敵以上のぞっとするような笑みが浮かんだ。
強盗三人は、つぎを撃つ為に体勢を整えようとした。その瞬間、小柄な漢は腰を落とした姿勢から後方へと宙返りしてのけた。しかも、すさまじい跳躍力で、高く高く、まるで鳥のように舞った。
はっとしたときには、三人のすぐ眼前に、細身の剣を抜き放った餓鬼たちが迫っていた。どの餓鬼たちも、それぞれ相対する自分たちの瞳を射るようにみている。
強盗三人は、なぜか同じことを考えた。そして、鳩尾の辺りに鈍い痛みが走り、そのまま気を失った。
黒い瞳は、まるですべてを吸い込んでしまいそうだ。三人ともそう強く感じてしまったのだ。




