奮闘!子どもたち
強盗団の幾人かが口笛を吹いた。からかっているのだ。それはそうだろう。自身らを付け狙う、いわば天敵ともいえる探偵は、騎兵隊を去らせたかと思うと、今度は得体のしれない黄色い猿どもに頼ったのだ。
自分たちもまた、その黄色い猿どもに頼ろうとしたことなど、とっくの昔に忘れてしまっている。
しかも、まだ年端もいかぬ餓鬼どもが眼前にいる。
これもまた、自身らのなかにその餓鬼どもとさしてかわらぬ年齢の餓鬼どもがいることを、失念しそうになっていて、そこで思いだした。
そういえば、奥にいる連中を呼びにいかせたんだった。あいつら、なにしてやがる・・・。
ジェイムズとヤンガーの兄弟たちは同時にそう思った。
挟みうちされている上でまた挟みうちしてやれば、目にものみせてやれるではないか、と。
あいにく、かれらは銃の腕はよかったが、それ以外はお粗末だった。ゆえに、どの襲撃もたいした計画もなく、単純に銃をぶっ放しては大暴れするだけだ。それでここまで有名になったし、ある程度稼いできた。だから、かれらは自分たちは最強の強盗団だと自負していた。しかも、ときたま奪った金を貧乏人に分け与えるので、義侠心あふれる正義の味方だとも思っていた。
『残念だけど、お仲間はこないよ』
ついさきほど、下品なことについて言及した玉置がいった。
『台所で優雅にホットチョコレートを呑んでるよ』
ついで田村だ。
『農場の人たちは、逃げた。裏にいたほかのお仲間は、気絶してる。だから、挟みうちなんて考えないほうがいい』
そして、市村がいった。三人は、強盗団をよんで忠告してやったのだ。
その三人の雄姿を後ろからみながら、土方はほんのすこし感動していた。むろん、当人たちには命を無視したことを言及せねばならぬだろう。だが、どうだ、この堂々とした態度は?
三人とも、京で会った時分にはひ弱だった、それは、体格だけではない。精神もだ。戦や病を乗り越え生き抜き、そして、さらに鍛えられた。
親代わりとして、これほど嬉しいことはないではないか。
しれず、表情がやさしくなっていた。
それをその横からみつめる厳蕃と幼子。二人もまた、それをみて嬉しくなった。
とはいえ、嬉しがっている場合ではない。実際、強盗団の幾人かは、すぐにでも拳銃を抜くだろう。
「さあ、わが甥よ。われらの出番だ」厳蕃は、抱いている甥に囁いた。「やりすぎるな。チャチャチャ、の要領だ。ゆうことをきかねば、みなの前でまたお尻ペンペンだ。あるいは、接吻の嵐だぞ」
厳蕃の胸元から、怯えた表情でみ上げる甥。
「わかっています、伯父上。チャチャチャ、ですね?わたしは、お尻ペンペンも接吻の嵐もいやでございます」
おどおどと囁く甥。その可愛らしさに、自身のこめかみに強烈な痛みが走ったことに、厳蕃は動揺した。
「伯父上?」甥が気づかぬはずはない。父親ばりに眉間に皺を寄せ、さらに可愛い相貌を近づける甥のその瞳に、厳蕃はさらに動揺した。こめかみがさらに痛む。
「気持ち悪い。相貌を近づけるでない。わたしは日の本の漢だ。亜米利加の漢のように、甥の頬に接吻をする習慣などもちあわせてはおらぬ」
そのいつにない動揺を含んだ拒絶に、甥はさらに眉間に皺を寄せた。
そのとき、家屋の屋根上に、偉大なる獣神がその雄姿を現した。
白き巨狼の咆哮が、小さな農場に響き渡ってゆく。
それが、戦闘開始の合図であった。