不意打ち
四人の漢たちが井戸で髭を剃り終えたところだった。小刀に水をかけ、軽く振って水気を飛ばすと、そのまま腰のベルトにはさんだ。
その小刀で肉を切ったり、缶詰を開けたりもする。非常に重宝な品物だ。もっとも、衛生面においてはどうかというところはあるが・・・。
「女がいるところに、はやくいきてぇな」「ああ?ここの婆さんとでもやりゃあいいじゃねぇか」
ここでもまた、会話の内容は似たり寄ったりだ。
「あれはなんだ?」
会話に参加していなかった漢が立ち上がりながらいった。はだけたシャツの胸元に弾痕がある。
ほかの三人がそちらを向いた。農場の入り口のほうから、四人の漢が歩いてくる。テンガロンハットにシャツにズボン、乗馬用靴姿で、唯一自身らの格好と違うところは、左腰に長い棒のようなものをぶら下げている。しかも、一人は鉄鎖をもっているようにもみえる。
「ここの身内の者か?それとも近所の者か?」
「知るか、きいてみろよ」
一人がいうと、ほかの一人が馬鹿にしたように応じた。
といいつつも、すでに四人は同じことを考えていた。
姿をみられたのだ。何者だろうと無事に帰すわけにはいかない。
四人は、すぐに早撃ちできるよう身構えた。
『やあ、調子はどうだい?』
そのとき、歩いてくる四人のなかの一人が愛想よく声をかけてきた。
それが合図だった。井戸端の四人は、同時に拳銃嚢から拳銃を抜いた。
「パン」
静かな農場に、乾いた音が炸裂した。むこうにひろがる林から、鳥たちが騒ぎ、飛び立った。
四人全員が驚きに瞳をみはった。なぜなら、撃ったはずの相手は、倒れるどころか剣を構えて立っているからだ。厳密には、三人が剣を構え、一人は鎌らしきものを構えている。
「なんだありゃ?」
一人が上擦った声でいったが、その漢も含め、すでに四人はつぎを撃つ準備が整っていた。だが、四人が引き金を絞るまでに、三人が剣を振りかざして迫っていた。しかも、1000ft(約30m)の距離があったはずなのに、だ。
『ひいいっ!』『うああ』『うわっ!』
四人のうちの三人は、発砲するまでもなかった。眼前に迫った相手を避けることすらできず、それぞれ腹部を剣で斬られた。そして、最後の一人は、飛来してきた鉄鎖に体躯ごと巻き取られ、身動ぎひとつできぬまま地面に転がされた。
「お見事です、八郎兄。それから、主計、利三郎、あざやかな手際だ。最初の一刀も完璧だった」
「尾張柳生のご当主様にお褒めいただき、伊庭八郎、恐悦至極にございます」
伊庭が義手のほうの腕を胸元にあて、上半身を折って軽く辞儀をした。
相馬と野村は、お褒めの言葉に、嬉しそうに相貌をみ合わせている。
「柳生のご当主様の鉄鎖術も、なかなかのものでござりまするな」
伊庭は姿勢を正すと、地に転がった鎖まみれの漢を、気の毒そうにみ下ろしながら称讃した。すると、当の尾張柳生のご当主様は、父親譲りの秀麗な相貌にはにかんだ笑みを浮かべた。
「峰打ちでのびている三人もどかしておこう」
「承知」
伊庭の指示の下、厳周、相馬、野村が応じた。
四人は、倒したそれぞれの相手を肩に担ぎあげ、畜舎へと歩き去っていった。




