救出
さして大きくもない母屋だ。本来の持ち主であるこの農場の一家は、日中は台所ですごし、夜半は畜舎で家畜たちと過ごさねばならなかった。
それでも文句はいえない。武装した強盗団だ。なにをされるかわかったものではない。
救いは、いうことに従っていればなにもされない、ということと、ここには年寄りしかいなかった、ということだろう。娘や孫らがいたら、それこそなにをされたかわかったものではない。
はやく去ってくれればいいのに・・・。ハリケーンや飢饉、そう思うことにした。突然やってくる天災と同じこと。不可抗力だ。
「なんだと、居眠りしてたら馬車がいなくなってただと?」
ヤンガー兄弟の一人が怒鳴った。とりあえずは、することがなくて暇だったので、ラム酒を呑んでいたのだ。これは農場にあったものではない。農場に酒は一滴もなかった。街からもってきたものだ。もってきてよかったと思わざるをえないだろう。酒も女もないところで、そうそう滞在してはいられない。
だれもが飽いていた。そこへ、馬車を見張っていた三人が戻ってきてそう報告したのだから大騒ぎになった。
乾し草の上にいた二人は、突然、体をひっぱられ、乾し草のなかに引きずり込まれたのだ。もうすこしで、乾し草のなかで窒息死しそうになった。乾し草のなかからやっとのことででてきたときには、どこもかしこも乾し草まみれになっていた。
そして、母屋のほうに駆けてゆくもう一人をみかけた。
三人は面突き合せて考えた。
なにやらわけのわからぬ者に奪われたというのと、いつの間にかきえていたというのと、どちらがいいのか・・・。
結局、後の考えに決まった。先のほうだと、なぜ撃ち殺さなかったのか、と余計にとっちめられるに違いない。それだったら、居眠りしていて、というほうがまだ、おなじとっちめられるにしてもましというもの。なぜなら、居眠りでなにかおこるのは、かれらのなかでのあるある、なのだ。
「おまえら、見張りもろくすっぽできんのか?」
それぞれの兄貴たちは、それぞれの弟の頭を拳で殴った。それから、さんざんに罵り、殴った。兄貴たちの拳はひりひりと痛み、それぞれの弟たちは悪い頭がより悪くなった、と心から思った。
台所の小さな卓に、農場の主一家が文字通り身を寄せ合い、居間からきこえてくる怒鳴り声を、戦々恐々とした気持ちできいていた。
とそこへ、裏口の扉から音がしたような気がした。一家が裏口をみると、扉のガラス越しに頭が三つみえた。背丈から、どうやら子どものように感じられる。
農場主がおそるおそる扉に近寄り、それをそっと開けると、扉の向こうにシャツにズボン、テンガロンハット姿の少年たちが立っていた。いずれも左腰になにか細長い物をぶら下げている。
『こんにちは、おじさん』
少年の一人が人懐っこい笑みとともに礼儀正しく挨拶した。
『迎えにきました』
つぎは、一番華奢な少年が、これもまたさわやかな笑みとともにいうと、
『いきましょう』
三人目もまた、にっこり笑っていった。
こうして、農場主の家族たちの安全は確保された。




