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青二才強盗(ヤング・ギャングズ)

 乾し草の山の上で三人の若者が寝転がっていた。三人とも、噛み煙草をくちゃくちゃとやりながら、頭の後ろに組んだ腕を枕がわりに、雲一つない青空をみ上げていた。

 三人は暇だった。その乾し草の山の下に、二頭立ての馬車があった。その荷台に積まれている荷を見張るのが、三人の役目だった。

「くそっ!ここにゃ婆さんしかいねえ」「そんなに飢えてるんだったら、婆さんでも抱いてりゃいい」

 一人目が腐ると、二人目がすかさずからかった。三人目は、声をださずに笑った。

 三人はずっとこうだった。

 まだ若い三人は、強盗ギャング団でも下の方だ。それは年齢だけではない。経験、知恵、はては女を抱く技量まで、すべてにおいて未熟なのだ。だからこそ、いつもこんなつまらない役目をおしつけられる。そして、三人はいつも同じようなくだらぬ内容を愚痴っているのだった。

「んっ?」

 乾し草の山の下でなにか音がしたような気がした。気づいた一人が上半身を起こし、下をのぞいた。すると、馬車が動いているではないか。いや、正確には、曳き馬が勝手に動きはじめたのだ。

「おいおい、どこにいくっ!」

 若者は慌てた。荷台に積んでいるのは、わずかとはいえ、先日の銀行強盗で得た戦利品だ。つぎの計画まで、強盗ギャング団の当座の生活資金となるのだ。それをなくしたとなれば、兄貴たちにぼこぼこにされるに違いない。兄貴たち、というのは兄貴分といういみではなく、ほんものの兄貴、血を分けた兄たちのことだ。そう、この強盗ギャング団は兄弟の寄り集まり。この三人はその兄弟のなかでも下の方の弟たちなのだ。

「止まれっ!」気づいた若者は、文字通り転がるようにして乾し草の山をかき分けおりた。

 残りの二人は、それをみて笑っている。

 地におり立った若者は、頭上をみ上げ、二人に怒鳴った。

「笑ってないで手伝え!殺されるぞっ!」

 それから、両の脚をもつれさせながら駆けだした。

「くそっ!あいつら、返事もしねぇで」

 若者は駆けながらぶつぶついったが、いまだ乾し草の山の上から二人が下りてくる気配すらない。

 それもそのはずだ。上の二人は、そこから忽然と消え失せていたのだから・・・。

 

 もうすこしで荷台に掌がかかりそうだ。必死に掌を伸ばし、掌をそこにかけることだけに集中した。なので突然、馬車が止まったとき、その不幸な若者は自身の両脚の動きを止めることができなかった。そのまま荷台にぶつかった。胸板を思いきりぶつけた。息が止まってしまうほどの衝撃に、若者は眼前に星が飛んでいるのをみた。

大丈夫アー・ユー・オーケー?』

 腰を折って咳きこんでいると、後頭部に気づかう一言が降ってきた。

畜生ファック、とんだめに…・・・』『だめだよ、そんなDHNきたない単語ワードを使っちゃあ』小さな子どもキッドのような甲高い笑い声に、若者ははっとして言葉を止め、頭をあげた。

子どもキッド?』なんと、荷台に小さな子どもが立っている。シャツにズボン、一丁前にテンガロンハットと乗馬用靴ライディングブーツという姿いでたちだ。

 若者は驚いた。この農場には、たしか爺さん婆さん、その息子夫婦しかいなかった。つまり、若者すらいなかったはずだ。ましてや子どもキッドなど・・・。身内でも遊びにきたのか?だとしたら、ほかにもっと年上のガールがいるかもしれない・・・。なぜか若者は、そんな期待をしてしまっていた。

『残念だけど、どれも間違ってるよ』子どもキッドは、悲しそうに微笑んだ。

『これ、欲しいんだ。もらってゆくね』子どもキッドは、小さな掌で荷台に積まれた荷を示した。

『・・・』若者がはっとするよりも早く、馬車は猛然と走りだした。土煙をあげながら、みるみる遠ざかってゆく馬車。

 あとに残された若者は、しばらく茫然とそれをみ送っていたが、ようやくわれに返った。それから、乾草の山のほうへとまた転がるようにして駆けだしたのだった。



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