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斥候、そして本隊

 斥候がやってきた。まさか、待ち構えているとは想定すらしていなかったのだろう。二名の斥候は、前方に人影を認めただけですぐさま回れ右をして去っていった。その去り際は、じつにいさぎのよいもので、追う追わないを迷う必要もなかった。もっとも、本隊もそのすぐ後にやってきたのだから、もともと迷う必要すらなかったのだが・・・。


「坊と朱雀の感覚フィーリングは間違っていなかったようですね、「豊玉宗匠」?」

 天城の鞍上で沖田が呟くと、いまは土方の肩上にいる朱雀が「きいっ!」と鳴いた。

「失礼な、と申しておるぞ、総司?」

 厳蕃が苦笑とともに教えてやった。

「ああ、ごめんソーリー、朱雀、そして、おれの小さな弟子よ」

 沖田は掌を伸ばすと、四十の鞍上で騎兵たちをみている幼子の頭を撫でた。

「疑心暗鬼?」頭を撫でられながら、幼子は言の葉の先生をみ上げた。

「まさか、そこまでではないよ。そうだな、懐疑、程度かな?でもいまは明々白々だ」

 それから微笑んだ。幼子もにんまり笑い返す。

「この程度レベルの違いをみれば、主計のやつ、どっちをとっちめると思う、一君?」

 那智の鞍上で、藤堂が頭の後ろで両掌を組み、駒を並べる斎藤に尋ねた。

「どっちとは?だれとだれのことだ?鉄と坊のことか?それとも総司と鉄のことか?」

「ねぇ、なにゆえおれがとっちめられなきゃならないの?主計はいい先生だよ。弟子の問題でしょう、そこは?」

「ひどいいい方だな、おめぇら?鉄は鉄なりにがんばってるんだ。天地がひっくり返りでもすりゃ、もしかするとなんでもすらすらわかるようになるかもしれねぇだろうが」

 金剛の鞍上で永倉がいった途端、土方の一喝が飛んだ。

「てめぇら、ちったぁ緊張感ってもんをもちやがれっ!あれがみえてねぇのか、えっ!」

 騎兵隊は、一町(約100m)ほど間を置いて様子を伺っている。騎馬たちの嘶きが風に乗って流れてくる距離である。

 土方の大音声は、味方の騎馬たちの動きを止めた。そして、きこえていたはずの騎兵隊たちの騎馬の嘶きが、風に乗って流れてこなくなった。

「おおっ!」

 全員が同時に感嘆した。当の土方も含めて、だ。

「すごいすごい、さすがは「すべての動きを封じるろくでなし」だ」

「ちょっとまてよ、総司!なんか文言フレーズが微妙にかわってねぇか?」

「いや、まったくかわってしまっているぞ、平助」

「ああ、「ろくでなしバスタード」だなどと、教育上もよくないぜ、総司?」

 永倉がいったところで、またしても土方が切れた。

「「四天王っ!」てめぇら、いい加減にしやがれっ!」

 その大音声は、地球上のすべての動き、気配を止めたかのようだ。

 地上を赤く染め上げる夕陽だけが、せつないまでに西の地平線に姿を隠そうとしている。

 そのとき、指笛が鋭く響き渡った。

 そこでやっとすべての動き、気配が戻ってきた。

 幼子の指笛だ。

「こっちもさすがだね。「すべての動きを制するいい子グッド・キッド」というわけだ」

「そこもまたかわってねぇか?だいいち、「グッド・キッド」って語呂合わせみたいだ」

「いや、そこは「可愛らしいアワ・リトル・ボーイおれたちの坊・イズ・ソウ・キュート」であろう?」

「いや、斎藤、そりゃそうだが、それじゃぁ長ぇな。単純シンプルに「おれたちの坊アワ・ボーイ」でいいじゃねぇか」

 永倉がいった途端、「もうよい!」土方よりもはやく、その義理の兄が止めた。苦笑しながら、だ。

「これで動作確認はできたであろう?」

 えっ、なんの?全員が心中で突っ込みながら厳蕃をみた。口にだして突っ込める厳周がすぐ傍にいないからだ。

「やってきます」

 そこでやっと、堂々巡りは終わりそうだった。

 幼子の注意は、相手の方から使者がゆっくりと近づいてくるのを知らせるものだった。



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