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古の兵法家

 小高い、というよりかはわずかに隆起した、といったほうがいい岩場があった。その周囲に枯れ木が何本か立っている。岩も木も、大いなる時間ときの流れと風雨とに耐え忍んでいるようだ。

 遭遇する前に、一行はそこに陣取った。岩場を背にする位置である。

 厳蕃と厳周親子の進言によってのことだ。

 かれらは、もともとが兵法家、である。一応は兵法なるものを頭に叩き込んでいる。一応は・・・。

 

 戦国から江戸初期にかけ、剣士たちは自身を売り込んだ。道場を開いたり継いだりできるのは一握りだ。つまり、剣一本で喰ってゆくには難しいのである。

 戦で手柄を立てようにもその戦がない。かりにあったとしても、剣術と殺し合いとではずいぶんと勝手が違う。目立った働き、といっても、混乱きわまる戦場で目立たせるだけでも困難だ。兎に角、剣一本で、自身の腕だけでのし上がるには、よほどの幸運と、奇跡的な偶然と、神がかり的な要領のよさがなければ、到底叶わぬわけである。

 剣士ではないが、豊臣秀吉とよとみひでよしなどはその最たる例であろう。

 かりに出仕の機会が与えられたとして、当時の剣士たちは剣だけでなくおつむの方でも遣えるところ主張せねばならなかった。ゆえに、剣豪某、というよりかは兵法家某、と自称したわけだ。

 柳生の宗祖石周斎、宮本武蔵、上泉信綱・・・。かれらはれっきとした当時の兵法家であった。

 だが、本来の兵法家の意味とは違う、武術を指南する者、としてかれらは捉えられていた。大軍を指揮し采配する武将からはかけ離れた意味に捉えられていた。ゆえに、その禄は低かった。

 兵法家、とはじつに曖昧な存在、あくまでも自称の域にすぎないのだ。


 辰巳は、古今東西類をみない有能な兵法家、否、軍師であり策略、戦略戦術家だ。そして、これもまた類をみない経験スキルを持っている。

 暗殺の業、戦場での干戈での技術、これらに負けず劣らずの知識と感覚でもって大軍を動かすこともできれば大軍を滅ぼすこともできる。

 そのもてる技術を、辰巳は自身の叔父従弟に伝えていた。否、その途中である。その正体がばれるまで、将来さきに起こるであろう戦に備え、戦略戦術を叔父従弟を通して利用しようというのだ。

 叔父従弟は、素地がある為じつによく吸収した。やはり、柳生はこと戦いということにかけての感覚センスは抜群なのだ。

 これならば十歳とおになるまで、十二分にやれるだろう。辰巳は叔父と従弟に期待するのだった。


 射撃の得意な山崎がライフルを掌に岩の上に潜んでいた。危急の際には、迷わず騎兵隊の隊長を狙撃するよう命を受けている。

 そして、岩陰には原田と島田と伊庭、そして厳周と白き巨狼がそれぞれ騎馬の鞍上にあるまま潜んでいた。こちらは、状況に応じて動くいわば遊撃ゲリラ隊だ。


 土方は、「近藤四天王」と厳蕃、そして、息子とともに騎兵隊の到着を待った。



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