わだかまり
副長や兄貴分たちの手前、なにもいえないまま了承したが、三人はあきらかに不満だった。
いつまでたっても子ども扱い。いったい、いつになったら一人前の漢として認めてくれるのか?いったいいつになったら、足手まといにならないと認識してくれるのか?
それは、野村、そして相馬ですら同様だ。野村も相馬もいわば子どもらのお目付け役、である。いい加減その任から開放されたい、と思うのは当然のことといえば当然だろう。野村はまだその不満を素直にあらわすことができるし、みな、それをわかっている。が、相馬となるとそうはいかない。相馬は真面目でききわけのいい、「土方の後継者」なのだから・・・。
ともに生命を賭けたい、と願うことすら許されぬ立場、というわけだ。その心情は複雑だ。
だが、その一方で、相馬は自身、重圧に晒されていることも承知している。万が一にもないだろうが、副長になにかがあれば、あるいは副長も含めて全滅すれば、残された子どもらや信江、スー族の二人とスタンリーにフランクを、なんとしてでも護りきらねばならないのだ。それだけではない、それぞれの将来のこともある。
そして、同時に副長の意図していることのもう一つの意味も解している。
今回、騎兵中隊と相対する視覚的効果のことだ。
軍隊と相対し、女子どもが混じっているよりかは帯刀した漢だけの方が効果的であるのはいうまでもない。少数でも東の国のサムライ、というだけで充分不可思議な力があるように錯覚するだろう。
実際のところは、坊がお馬さんたちにお願いし、戦うことなくお引取り願うのだろう。おそらくは・・・。なぜなら、追ってきている中隊は、南へ向かう途中らしい。一戦交える意味も意義もない。
相馬は、ライフルなどの準備をしながら、しれず溜息をついていた。
その相馬の作業の掌が止まりがちなのを、島田が気がついていたようだ。
「主計、おまえの統率力はすでに証明済みだ。今回は護衛役に徹してくれ。今後、いやでも戦いに参加せねばならなくなる・・・」
「ええ、承知しています、魁兄さん。ですが・・・」
相馬のやりきれぬ思いは、島田も十二分に承知している。
「ならば、副長にはっきり伝えればいい。「わたしも参加させてくれ。子どもらも戦闘にかりだすべきだ」、と」
相馬は鼻白んだ。若い方の「三馬鹿」を弟のように思っている。その弟たちを血生臭い戦いの場に引き摺りこむのは、できるだけ先延ばししたい・・・。
「結局は、だれも掌を汚さず、殺さず傷つけず、というわけにはいかぬ。それは、大人子ども関係なく、だ。この旅にでたときから、それはわかっていたこと。だが、できるだけそれを先に延ばしたい・・・。その思いはだれしも同じこと。それもまた大人子ども関係なく、だ。主計、副長の責務の重さはわたしたちには理解できぬだろう。たとえ、その責務を継ぐであろうおまえであっても・・・。ゆえに、わたしたちは、せめて加重せぬよう、それぞれがそれぞれの領分で努めるべきだ・・・。まぁ、なにをどれだけいわれようが、頭で理解することと心情は別物だからな。たまには、わがままいうのもありだと思うぞ、主計?」
島田のでかい掌で肩を盛大に叩かれ、相馬はかろうじて踏みとどまった。苦笑するしかない。
そう、今回はいつものとおりいい子でいよう。だが、次回は・・・。
「魁兄さん、ありがとうございます。さっ、きかん坊の三人にはっぱをかけてきます。ライフルの整備の残り、お願いできますか?」
「もちろん」
若い方の「三馬鹿」の方へと歩き去ってゆく相馬の背をみていると、離れたところから同じようにみつめている者がいた。
土方だ。島田がそちらをみると、土方もまた島田をみた。
土方は、口の端を上げると二本の指で敬礼を寄越した。




