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生徒たちと先生

 相馬が大変だ、と感じたのはほぼ全員だった。

 また一人生徒が増えた・・・。人数が増えた、という物理的量に関することによることではない。

 問題は質、についてだ。


 ケイトも当然のことながら学校に通っていなかった。そのほとんどを父親によって宅内に監禁されていたからだ。

「はー・・・」

 相馬の深く長ーい溜息が一行を丸ごと包んだ。

『なにゆえだ?なにゆえわかってくれぬのだ、鉄?』

 相馬は慟哭した。魂からの叫び、といってもいいほどだ。あたらしく加わった少女は、ジムと同じようにもともとが聡明だった。ヒントを与えるまでもなく、相馬の質問にすらすら答えるばかりか、学ぶことそのものを心から愉しんでいるかのようだ。

 そして、市村はあいかわらずだった。ケイトが増え、世話する馬の数にも変化がでる。ただし、ケイトは女子おなごだし馬そのものに慣れていないことから、しばらくは飼葉や水をやる、程度のお手伝いで頭数に入れないことになった。

 相馬は、いまいる馬の数と人間ひとの数を伝え、計算、というものを説明した。試しにケイトに世話する馬の数を尋ねたところ、ほとんど間をおかずしてかのじょは正しい数をおずおずと述べたのだった。

『九頭、九頭だよね、主計兄?』

 伊吹の鞍上で、そう堂々と宣言する市村。

 世話をしなければならぬ馬の数がまた増えている・・・。だれもが心中で唸った・・・。

『鉄、わざとなのか?わたしを困らせようとわざと申しているのであろう?怒りも叱りもせぬゆえ、正直に申してくれ・・・』

 相馬はついに泣き落としにでた。

『主計、わざとじゃない』

 吾妻の鞍上で、相馬の両の肩ががっくりと落ちている。その背に鋭刃を突き付けたのは、藤堂だった。

『気の毒だけど、わざとやいやがらせじゃないよ、主計?』

 そして、その前方からは沖田の機嫌のよい声音が流れてきて容赦なく相馬を鞭打った。

お馬鹿なだけだジャスト・フーリッシュ!」幾人かが同時に同じ言の葉を発した。    

「はー・・・」

 相馬の深く長ーい溜息が再度一行を包み込んだ。

 しかも、その幾人かのうちに、当人がへらへら笑っているではないか・・・。

 がんばれ、相馬!いつか、いつか、神々も驚くような奇跡ミラクルが起こるかもしれない。

 そう、どんな奇跡ミラクルをも超越する、超奇跡スーパー・ミラクルがやってくるかもしれないぞ!


「追ってきます」

 市村談義でわいわいやっている仲間たちを横目に、幼子は父親と伯父に四十を近づけてからそっと囁いた。

「どちらだ?」父親が尋ねると、息子は騎兵だと答えた。その小さな肩では、すでに新撰組の翼ある隊士朱雀が控えている。

「夕刻までには追いつかれます」息子のさらなる報告に、父親は朱雀に命じた。

「朱雀、頼むぞ」

「きいっ」

 了承すると、大鷹は暮れかかっている大空へと舞っていった。


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