亜米利加(アメリカ)の強盗(ギャング)と日の本(ジパング)の武士(サムライ)
先ほどの強盗団の兄弟、そして、その仲間らしい、みるからに性質の悪そうな五名、計七名がやってきた。いずれも無精髭を生やし、テンガロンハットにシャツにベスト、ズボンに乗馬靴姿で、肩か腰に拳銃嚢をぶら下げている。そして、馬の鞍にはライフルを装備していた。
強盗団の面々は、さすがに堂々としていた。三倍以上の人数を前にしても動じる様子もなく、それどころか噛み煙草をくちゃくちゃさせ、ニヤニヤと他人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべている。だが、隙はなかった。相対する者のなかで指先一本でも動かせば、すぐに拳銃かライフルを抜き放つだろう。
実際、いずれも早撃ちの名手である、ということを土方らは後になってから知った。
そして、後世にまで語り継がれることになる「ジェイムズ・ヤンガーギャング」と呼ばれる有名な強盗団であることも。
『街からずっとついてきているようだが、なにか用かな?』
富士の鞍上で、土方は目深にかぶっていたテンガロンハットを指先で押し上げ、相対する白人たちにきいた。
先ほど会った兄弟の弟らしき方が、「ヒュー」と口笛を吹いた。先ほどの親子だと気がついたのだろう。
『街で騎兵どもを軽くあしらっているのをみかけた。どうだい、でかい儲け話がある』
先ほどの兄弟ではなく、横にも縦にもでかい漢がいった。右の頬、目尻から顎にかけて大きな傷跡が走っている。
『悪いが、おれたちは西部へ戻る途中でね。先を急いでいる。それに、騎兵についてはあしらったわけではない。かれらはひきあげただけだ』
土方は、そういいながら山崎を伺った。その隣で、土方の義兄も山崎をみている。
山崎もまた、土方とその義兄をみていた。心中で「賞金頸です」、と告げながら。
さすがは、一行の優秀な監察方である。山崎は、現在、この亜米利加に布告のでている賞金頸を把握しているのだ。
その賞金頸たちは、自身らを取り囲む一行を無遠慮に眺め、やはり騎兵らと同じところに気がついたらしい。
『やめとけやめとけ。インディアンに黒人、それに黄色い猿どもだ』
一人がいった。まだ二十歳をこえているかいないかの若者だ。
『ああ、だが荷は使えそうだ。武器もな。それに女、だ・・・』
違う一人がいうと、全員が下卑た笑声を上げた。
このときは、一行も落ち着いたものだ。相手を見下したり油断してのことではない。すでにわかっていたからだ。
『あんたら、忠告しておくよ』
不意にスタンリーがいった。ここは、白人の言のほうがなにより勝るはずだ。
『たった七人でやってきたことは勇敢に値するが、すぐに去ったほうがいい。黄色い猿どもは奇妙な業を遣うし、黒人は力が強い。インディアンは呪術を駆使し、女にいたっては魔女、だ』
真剣な表情でさらりといってのけるスタンリー。
その機で、幼子が強盗たちのお馬さんたちにお願いした。
なんの前触れもなく、お馬さんたちは、くるりと街の方向へ体躯を回転させた。それから、急に駆けだした。
『畜生っ!』「くそっ!』『どうなってやがる!』
などと、「DHN(信江に地獄に落とされる)単語を声高々に残しつつ、そして、土煙を巻き起こしつつ、強盗団は急速に遠のいてしまった。
『先ほどの魔女のくだりは、筋書きになかったですわよね、スタンリー?』
土煙を眺めつつ、信江が静かに尋ねた。
『いや、あ、あれは・・・』口ごもるスタンリー。
だれかが笑いだした。すぐに全員に伝染する。
「できるだけ遠ざかったほうがいい」
金峰を寄せ、義兄にそう囁かれた。土方も同感である。ゆえに、義兄に頷いてみせた。
『出発だ。すこしでも街から離れたほうがいい』
そして、再度出発の号令をかけた。




