表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

264/526

実感と憤り

 富士の鞍上で、土方は憤っていた。

 先ほどの騎兵の無礼に対して、だ。それは、自身の妻とケイトに対してだけではない。むしろ、それ以上にイスカとワパシャ、そしてジムに対してのことだ。

 人間ひとを、まるでもののように扱っている。それはなにも先ほどの騎兵だけではないのだろう。ごく自然にそういう感覚が身についているのだ。フランクやスタンリー、そして、ニック夫妻には感じられないものを、この亜米利加くにに住まう多くの者から感じられる・・・。

 そして、それを感じているのは土方だけではない。その身内なかま全員が等しく感じていた。実際、永倉や原田などは、不快感を隠そうともせずご機嫌ななめであるし、沖田や伊庭は、表情かおにはださずとも不機嫌そうにしている。

 やはり、街は避けたほうがいい。一行は言葉数すくなく街をでてゆこうと先を急いだ。


「ついてきているな、いかがいたす?」

 金峰が富士に近づいてきたのは、街をでたころだった。この夜は、寝台ベッドで眠れるかもしれない、温かい食事ができるかもしれない、と全員が淡い期待を抱いていたはずだ。が、いまはだれもが、一刻もはやく街を離れたがっていた。この夜も星星と月をみながら、缶詰や固いパンで食事し、夜風に抱かれて眠りたいと思っていた。

 そこにきて、いまや日の本の人間ひとはそれに気がついていた。距離を置き、近づいてくるその気を・・・。

「害意はないようですね、義兄上あにうえ?」

 土方は、富士を歩ませたまま相貌だけを義理の兄に向け、確認した。

「ああ、いまのところは。が、目的はわかっておる。そして、それに対するわれわれの対応も。さらには、そのわれわれの対応に対する連中の反応も」

 土方の義兄は、そういってから両の肩を竦めた。

「致し方ありますまい。放っておいたらどこまでもついてきそうだ。追っ払うしかなさそうです」

「が、そうなれば、われらは先ほどの騎兵どもを相手どることになるだろう。連中がそう仕向けるだろうしな」

 柳生の兵法家は、すでに起こるであろう将来さきまで予見している。

「もっとも、騎兵どもを呼ぶのは、いまから会う連中ではなく、こいつらやもしれぬが・・・。そろそろ痺れをきらしておるのやもしれぬ・・・」兵法家は、四本しかないほうの掌で軽く自身の胸を叩いた。

義兄上あにうえ・・・」

 土方は反論しかけた。こんなささいな問題トラブルにまで関与するほど、うちなるものかみが暇をもてあましているとも思えない。

「すまぬ・・・」それをよんだ厳蕃は、自身の胸からその掌を上げ、義理の弟の口唇を閉じさせた。

「副長っ!だれがゆく?」

 そのとき、永倉と原田がそれぞれの騎馬を寄せてきた。

 まったく、ここの連中は察しがよすぎるし、よみすぎだ・・・。土方もその義兄も内心苦笑した。

「新八、左之、得物は?」

「無論、ぬかりはない」土方の問いに、永倉が答えた。

 一行は太刀は帯びていない。帯びているのは拳銃ガンだ。肩から、あるいは腰に、拳銃嚢ホルスターを装備している。それは、この亜米利加くにに合わせているだけだ。実際は全員が腰、あるいは懐に小刀ドス軍用刀アーミーナイフを隠しもっていた。危急の際、どちらを遣うかと問われれば、無論、後者だろう。

「丁重に迎えろ。紳士ジェントルマンらしく振舞ってくれよ」

「承知。いわれるまでもなく、おれたちはウイ・紳士のなかアー・の紳士さザ・メン」 原田が笑いながらいった。

 そして、二人は馬首をもときた方向へと向けると同時に拍車をかけた。


さあみんなエブリバディ客人たちをゲスツ招くぞウイル・カム・スーン

 土方が一行に告げるまでもなく、身内なかまはすでに承知していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ