非礼に無礼
『待て待て、貴様らっ!』
強盗団対軍隊、の結末については一行もおおいに気になったが、そこは結局、一行には関係も責もない。ふたたび鞍上の人となり、出発したところだった。
後ろから、騎兵隊の小隊が追いかけてきた。それだけでなく、居丈高に一行を制止した。
小隊は、一行を追い越すとその進行方向に立ちはだかった。
『いったい、なんでしょうか?』
土方が代表して尋ねた。目深にかぶったテンガロンハットの下で、双眸が油断なく騎兵たちをうかがっている。
『何者だ、貴様ら?そこにいるのはインディアンに黒人ではないか?』
チョビ髭を生やした隊長格の兵が、馬車の幌のなかを指差しながら糾弾した。無論、その指先にはスー族の二人とジムがいる。先ほど銀行を通りかかろうとした際にみられたのかもしれない。
『この連中は、旦那様が使っている奴隷です』
土方が口唇を開くよりもはやく、フランクが阿蘇を騎兵たちに近づけながら応じた。
『旦那様は西部で牧場を手広く経営されていて、このたび、東のほうに牛を売りにゆき、逆に軍から払い下げられた馬を仕入れ、西に戻る途中でございます』
スタンリーもまた、岩手をずいと進めて説明した。
この内容は、あらかじめ取り決めていたものであった。
じつは、馬たちの多くに軍のものであるという、小さな焼印が馬の左腿辺りにあるのを幼子が知ったのだ。お馬さんたちからきかされたわけである。ゆえに、第三者からなにかをいわれた場合を想定し、先の筋書きを説明することになっていた。
『ほう・・・』二人の説明に、小隊長らしきチョビ髭の兵はチョビ髭を弄びながらしばし思案していた。その部下たちは、いずれもにやにや笑いながら一行を、とくにスー族の二人とジム、そして信江とケイトをみている。そこには、暴力と性欲がはっきりとみてとれた。土方以下、日の本の武士たちははっきりと感じていた。
『通行料・・・。そうだ、通行料が必要だ。どうだ、旦那様よ?通行料代わりにインディアンと黒人、それと女二人を置いてゆけ』
その刹那、一行に相手にはわからぬ程度の負の気が流れた。
土方は片方の掌をさっと上げ、抑えるよう全員に合図を送った。
『通行料?それはおかしな話ですな・・・。そんなものは置いてゆくつもりはありません。われわれは先を急いでおります。通していただけませんかね?それとも、お馬さんたちにお願いしないといけませんかね?なぁ、息子よ?』
富士の鞍上で、土方は一行の隅で四十に騎乗している息子にわずかに視線を向けた。
その瞬間、である。騎兵たちの跨るお馬さんたちが蹄で地をかきはじめたのである。そして、鞍上の騎兵が「んっ?」と疑問を抱くよりもはやく、同時に駆けだした。馬首を揃え、一斉に駆けてゆく。元きた道を、一心不乱に駆けに駆けた。
鞍上の騎兵たちの悲鳴や怒声、系統の違う神への冒涜や祈りの言葉が、尾びれのごとく残された。
取り残された一行は笑った。そして、幼子の小さな掌と自身の大きな、あるいは小ぶりの掌とを、叩き合わせたり拳を作って軽く打ち合わせた。
それから、なにごともなかったかのように出発したのだった。




