強盗(ギャング)のジェイムズ兄弟
フランク・ジェイムズとジェシー・ジェイムズは、四歳違いの仲のよい兄弟だ。兄のフランクは二十九歳でちょび髭を生やしており、弟のジェシーは二十五歳でまだあどけなさの残る相貌。細面の甘いルックスは、女性を虜にするに充分な威力がある。
ミズーリ州の出身で、バプテスト派牧師の子として生まれた敬虔なクリスチャンである。母方の実家が黒人奴隷を使ってタバコ農園を経営していた。だが、南北戦争がはじまると、兄のフランクは南軍の兵士として従軍してしまった。そして、弟のジェシーもまた、兄を追って実家を飛びだした。そのとき、十六歳だった。
だが、兄のフランクは、上官に対する不服従に加え、強盗や殺人などの罪から軍を追われており、同じような連中からなるゲリラ部隊で南軍に与しているにすぎながった。合流したジェシーは、当然のようにそこに入った。そして、そこで強盗や殺人を覚え、腕を磨いた。
ジェイムズ兄弟は、神への信仰があついのと同じくらい銃の腕が立った。拳銃、ライフル、どちらもまるで自分の手足のように使いこなすことができた。
戦争が終わったことにより、生活の糧が失われた。ゲリラ部隊の多くは故郷に戻ったり、どこかに散っていった。だが、ジェイムズ兄弟やヤンガー兄弟は、いまさら平和で安全な暮らし、たとえば畑を耕したりなにかを作ったりするような生活を営む気はさらさらなかった。だからひきつづき、強盗をやった。
銀行、駅馬車、金持ちの家、賭博場に競馬場、とにかく、金のあるところならどこでもよかった。成功することもあれば失敗することもあり、空手で逃げることもあった。その繰り返しである。
ミズーリ州クレイ郡リバティで、1866年2月13日に銀行を襲った。それが世界初の銀行強盗で、現在でもその日は「銀行強盗の日」として定められている。
そんな偉業(?)を達成した兄弟だ。
「どうすんだよ、兄貴?」
足早に歩きながら、弟は兄に尋ねた。下見にいったはいいが、騎兵隊ががっちり護っている、ということがわかっただけだ。一個中隊。この近くに戦場も駐屯地もないことから、インディアンとの争いで転戦する途中なのだろう。
「おれにきくな、ジェス」兄は弟を子どものときからの愛称で呼んだ。
「あきらめるか、今回は?」
「なぁジェス、おれにきくなっつってんだろ?とにかく、戻ってヤンガー兄弟にみたことをいってやる。まったく、あの馬鹿どものお陰で予定が台無しだ」
「ほら吹きボブはあっちもほら吹き・・・」
ジェシーは奇妙な節をつけて、ヤンガー兄弟の末弟のことを揶揄した。そもそも、そのボブが娼館で大ぼらを吹いたことがことのはじまりだったのだ。
「痛っ!兄貴、急に立ち止まるなよっ」
フランクが急に立ち止まっていて、弟は兄の後頭部にいやというほど鼻をぶつけてしまった。
『やだっ!これ以上歩けないっ!抱っこして、父さん』
小さな子どもが煉瓦造りの歩道の中央に座り込んでいた。両脚を前に投げだし、てこでも動くものかという雰囲気が漂っている。それを、父親だろう漢が立ってみ下ろしていた。
テンガロンハットに長袖のシャツにズボン、そして乗馬靴。漢の顔は目深にかぶったテンガロンハットのせいでよくみえない。そして、小さな子も一丁前に同じ格好だった。しかもテンガロンハットは大人用なので、小さな子どもの頭部をすっぽりと隠していた。
「大変だな、ききわけのない餓鬼のお守りは?」
端によけながら、ジェシーが漢にいうと、それまで泣き叫んでいた子どもが不意に泣くのを止めた。テンガロンハットの下から上目遣いに通りすがりの自分たちをみているのが、兄も弟も感じとれた。しかもぞっとするほど奇妙な視線だった。
『そうなんですよ、まったくききわけのない子で』
漢のほうがいっていた。目深になったテンガロンハットの奥にみえたのは、あきらかに遠い西の国の顔つきだった。
それもまた、兄も弟も違和感を抱いた。
『やだやだー、歩きたくないよー』
すこし歩いてから振り返ると、小さな子はついに歩道上に寝転がり、手脚をばたばたさせて訴えだしていた。
「なんだありゃ?」ジェシーが呟いた。
「ジェス、ほっとけ。黄色い猿だ」「ああ・・・」
そして兄弟はその場を後にした。




