襲撃計画
街の中心部らしきところに公園があった。ここには人も馬車もいきかっている。
さすがに馬の数が多いこともあり、公園は馬だらけになってしまった。
もっとも、公園といってもだだっぴろい野原に小さな噴水があるだけだ。
『で、お馬さんたちはなんといっていた、坊?』全員が下馬し、土方の周囲に集まった。土方は息子を手招きし、足許に駆け寄ってくるとさっそく英語で尋ねた。
『お馬さんたちは、任務だといっています』
幼子は、甲高い声音できいたことを教えた。
『盗人が銀行を襲う計画を立てていて、探偵がちょうど南部に向かうお馬さんたちに助けを求めたんだって』
『えっ、お馬さんたちに頼んだ?お馬さんたちは盗人を踏みつけるの・・・』
市村が驚きの声を上げた刹那、いつものごとく永倉と原田、そして、藤堂の三打がうまくその頭と両の肩に決まった。
『そんなわけないだろう、鉄?お馬さんたちは蹴る・・・』そして、かわって藤堂がいいかけたところを、あとの「二馬鹿」がそれぞれ息のあった二打を左右の頬に決めたのだった。
その様子を、一行に加わったばかりのケイトが、白くしなやかな両の掌を口許に当て、驚きの表情でみている。
『ケイト、大丈夫。きみは大丈夫だから。あれは、馬鹿にだけ与えられる試練だと思ってくれていい』生真面目に解説する斎藤。
『ケイト、きみはあれをみて驚かなくていいし、ましてや可愛そうに思うこともない、いいね?』
そして、山崎もまた生真面目に忠告する。
『盗人?フランクのいうところの強盗ってやつですよね?』
さすがは相馬だ。土方の眉間の皺がわずかに緩んだ。
『正確には強盗団だ。紐育にいた頃、『ニューヨーク・タイムス』の各州の情報をよみあさったとき、強盗団なる一団が駅馬車や列車、街の銀行を襲う、と報告されていた。組織的におこなわれ、保安官などもどうにもできぬらしい』
ここもさすがは山崎だ。
『それにしても物騒な話だな。強盗団に騎兵隊とは・・・』
厳蕃は呟きながら土方の足許の甥をみおろした。すると甥は、伯父と視線をあわせてからそれをゆっくり通りをはさんだ向こう側へと移した。その視線を追う厳蕃。
二人の男が足早に歩いていた。二人ともテンガロンハットを目深にかぶり、シャツにベスト、ズボンに乗馬靴、そして腰に拳銃嚢を装備している。典型的な銃者だ。二人は、一行がやってきた方角、つまり銀行のほうへと向かっているようだ。
「くそっ!」厳蕃は妹の手前、日の本の言葉で罵った。
『やはり、おまえは死んだ従兄に似てきておるぞ。性悪になりつつ、否、性悪になってしまったぞ、坊?』
そして、英語に切り替えて罵った。
なぜなら、厳蕃もまたその二人から強烈な血と悪意を嗅ぎ取ったからだ。