街の騎兵隊
今回は全員で街を通過することになった。なにせ、問題があることがわかっているのだ。別行動は得策ではない。
案の定、スー族の二人と黒人のジムは難色を示した。だから馬車の荷台に幌をはり、そのなかに入ることになった。
どこかの牧場から馬を売りにゆく途中、というていを装うことにした。
が、街なかに入るとだれもが気にしなかった。街の人が、という意味だ。こういう旅人が多いのか、あるいは、街の人がそもそも関心を示さないのか、はわからない。
若い方の「三馬鹿」とケイトは、子どもらしく興味津々で街をみまわしている。
ケイトは、すこしづつではあるが一行に慣れてきているようだ。そして、漢たちもまた、かのじょに必要以上に気をつかった。長老各にあたる年齢の者は、なるべく近寄らないようにした。
ケイトの父親のそれと近いからだ。そして、幼子もまた、こちらは別の意味で距離をおいた。ゆえに、厳周、伊庭、藤堂、沖田に斎藤、野村に相馬、そして若い方の「三馬鹿」が、超がつくほど紳士的に振舞った。
そこまで紳士だと、逆に疑いたくなるのは長老格たちだ。藤堂は別として、衆道かと疑いたくなる。無論、そのようなことを口外するわけもなく、長老格それぞれがそれぞれの心の奥底で気にする程度、ではあったが。
『おいっ、みろよ!ありゃ軍人じゃねぇのか?』先頭のほうにいた原田が九重を返してきた。九重は草競馬の影響もなく、すっかり元気になっている。
みると、煉瓦造りのひときわ重厚な構えの建物の前に一個中隊程度の騎兵隊がものものしい装備のもと配置についている。
どうやらその建物を護っているような感じだった。
『ああ、あれがこの街の銀行だ』
フランクがいった。
『なにそれ?紐育の銀行は、軍隊が守備していなかったのに、この街では護るわけ?』
沖田の疑問は当然だ。幾人かが頷いた。
『まさか!連邦銀行以外の民間の銀行を通常は護るわけがない』
『ふんっ!連邦銀行だって警護しないぜ、フランク?』
フランクとスタンリーもその光景を奇異と感じているようだ。
そういえば、この辺りだけ人や馬車の数がすくない。というよりかはみかけない。
『おいっ、そこの連中っ!なにをしている?ここからは通行止めだ。とっとと失せろ』
そのとき、騎兵の二名が怒鳴りながら騎馬を駆ってきた。
四十から飛び降り、息子がさりげなくその騎馬たちに近寄るのを、視界の隅に認めた土方は、口許だけはっきりみえるようにテンガロンハットを目深にかぶりなおし、その騎兵たちに媚びた笑みを浮かべてみせた。
『すみません、田舎者で。なにかあるんですか?』
騎兵たちの一人がありありと鷲鼻の目立つ相貌に、嫌悪の表情を浮かべ吐き捨てた。
『なんでもないっ!はやくいけっ、目障りだ』
土方は片方の掌を振った。全員が馬首をもときた道へと返す。
『ふんっ!田舎者どもが』
もときた道をゆっくり戻ってゆく一行の背に、騎兵たちの揶揄がぶつかったのだった。




