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運命の出会い

 信江はなんの警戒も躊躇もなくドアから入るとずかずかと廊下を奥へと進んでいった。その後を甥が必死に追いかけてゆく。

 この丸太小屋ログハウスに侵入したのは、これで三人目それから四人目。すでに先の二人で、なにかがあったとしても終わっているはずだ。ゆえに、信江はなにか、に精神こころをくだく必要はないのだ。

 廊下側に開いたドアの前にいたると、信江はなかをのぞき込んた。そして、瞬時に状況を把握した。

 甥に廊下で待つよう指示し、一人で室内に脚を踏み入れた。寝台ベッドの上で両の膝を抱え、信江をみている少女ににっこり笑いかけつつ、片膝を折って掌を伸ばした。いまだ床の上でのびているおとこの頚動脈に指を当てた。

お父様ダディ?』床の上のおとこ視線を走らせながら少女に問うと、少女はこっくりと頷いた。肩からかけられた男物のシャツが、信江自身の兄のものだとみとめると、信江は少女にゆっくりと近寄り、それからその貧弱な肢体を抱きしめた。

子どもキッドと、の後にミスターがきたわね?』少女はまた頷いた。

 信江はすべてを把握した。息子は、否、辰巳はこれを目の当たりにした。少女の父親が生きていることのほうが驚きだ。そして、その後に訪れた自身の兄は、これをどういう気持ちでみ下ろしただろう。

「厳周、向かいの部屋になにか羽織るものがあるかみてちょうだい。服でも敷布シーツでもなんでもいいわ」

 廊下にいる甥に頼むと、「叔母上、向かいの部屋の寝台ベッドから敷布シーツを持って参りました」と、ほどなくして甥の声がきこえてきた。

「なかに放ってちょうだい。あなたはいましばらくそこにいて」

 信江は、なかに放り込まれた敷布シーツを掌にすると、寝台ベッドの上の少女の痩せ細った体躯から兄のシャツをとり、そのかわりに敷布シーツですっぽりと覆ってやった。

「わたしのネヒューがあなたとしばらくいてくれるわ」そういうと、抱いている体躯が硬直した。『心配しないで。わたしのネヒューは、女の子が苦手なの。でも二枚目ハンサムでとてもやさしく、話し上手よ。面白い物語をしてくれるわ』

 あやすように告げた。女の子が苦手、というところで誤解されぬか?と思わないでもなかったが、そこは致し方ない。兎に角、少女を安心させたかった。そして、ここから先は一人でいきたかった。

『厳周、いいわ入ってきて』

 英語にきりかえた。これもまた少女を安心させる為だ。すぐに甥が入ってきた。甥もまた室内の状況からある程度の事情は察したらしい。

『わたしはノブエ、あなたは?』『ケイト・・・』少女は入ってきた厳周をこわごわみながら答えた。

『ケイト、これがわたしのネヒュー、トシチカよ。トシチカ、この可愛らしいお嬢さんはケイト。しばらくの間、ここでケイトにお話をしてあげて。そうね、この国ではきけない日の本ジパングの昔話などいいかもしれないわね』

 厳周は、少女に『ハイ!』と愛想よくいってから叔母をみた。

 一人でいきたがっているのかもしれない。叔母の心中をよむのは難しい。厳周自身がまだまだ未熟なのだ。わざとよまされるかしないと、とうていよみとれぬだろう。そして、防衛するその心中をよめる者は、この家の奥にいるおとこたちだけなのだ。

「承知しました、叔母上。ここは大丈夫です。はやくいってください。あなたを待っているのかもしれないですから」

 厳周は、叔母に父親似の秀麗な相貌を近づけると囁いた。それから椅子をひっぱてきて寝台ベッドから距離を置いてそれに座った。

『ではケイト、きみにとっておきのお話をしよう。ライク・ア・デーモン退治のお話だ』

 それを背でききながら、信江は廊下にでた。

 いまの信江には、身内である二人のおとこたちのことしか頭にも精神こころにもなかった。

 ゆえに、まさかこのとき、運命の出会いがあったことなど、知るよしなどあろうはずもなかった。


 部屋から廊下へで、そのまま奥へと廊下それを進みはじめた信江は、奥の暗がりに大きな荷物を肩に担いだ小さな人影を認めたのだった。

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