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追う者追われる者

 林に入り慎重に騎馬の歩をすすめているとほどなくして朱雀が低空飛行で現れた。

 先頭をすすんでいた厳蕃は右の掌を上げ一行に制止を伝えるとそのまま腕を上げた。すると朱雀はそこに着地した。朱雀は小さな頭部を厳蕃の右側の耳朶にしばし近づけていた。それはまるで内緒話をしているかのようにみえる。

『わかった。ありがとう朱雀』厳蕃は金峰の馬首を巡らせると後ろに従う仲間たちに騎馬ごと向き直った。

『馬に騎乗したおとこ三名と馬車に乗っている五名を騎馬隊が追っている。馬車の荷台にはどうやら怪我人がいるようだ。甥はその血の臭いを感じ取ったらしい』

『軍に追われてるって賊かな?』藤堂の疑問に厳蕃は小ぶりの相貌を軽く左右に振った。

『気や外見からそうとはみえぬらしい。子犬ちゃんパピィと甥は、イスカ、どうやらあんた方インディアンのようだといっている』

 全員がこの場にいる唯一の亜米利加このくにの民に注目した。

 浅黒く彫りの深い表情かおになにも現れてはいない。そしてその精神こころにもなにも現れなかったので、異国人たちはよむことも感じることもできなかった。

 さすがは呪術師シャーマンだ、と厳蕃は苦笑した。

大精霊ワカンタンカたちの判断は正しいでしょう。おそらくはインディアン。政府ガバメントのいうことに従わなかったか居留地を逃れたか、といったところでしょう。この辺りにはアルゴンキン族の地でした。ここよりすこし北上したスペリオール湖辺りにはオジブワ族の土地がありました』

『でしたにありました、か・・・』沖田が呟きながら騒擾の方向をみつめた。

 どちらも過去形。どちらもいまはない。インディアンたちは土地も生活も奪われたのだ。遠き異国からやってきた白人たちによって。

『追う側は五十名程度の騎馬隊だ』『一個小隊ってところか?五十名程度なら』

 報告はつづく。永倉が一つ頷いて応じると、それをきいた伊庭がくすりと笑った。

『なにがおかしいのです、八郎兄?』厳周が比叡を隣に立てている伊庭に問うと、伊庭は秀麗な相貌に満面の笑みを浮かべた。それはすっかり暗くなっていたが白い歯がはっきりと浮かんだ。

亜米利加このくにの軍隊を相手取って一個小隊五十名を程度って・・・。これが師匠や新八っつあんでなければ虚勢としか思えないだろう?』心底おかしそうにいうものだから、斎藤まで歯をみせて笑った。

『師匠、さっきもいいかけたとおり、おれたちはあなたの指示通りに動きます。あなたの期待以上の成果を上げてみせますよ』永倉が不敵な笑みとともにいった。『それがわれわれ「近藤四天王」ですから』と沖田が繋げた。『そうそう、考えることは苦手でも考えられた通りに動くことは問題ない。しかも命知らずときてます』那智の鞍上で頭に両腕を回しおどける藤堂に、厳蕃は大きく頷いた。

 かれらのお蔭で決断できたのだ。

『朱雀、物見に伝令だ。陽動しろ、と。騎馬隊を引っ掻きまわし逃げる者たちから百のを逸らさせよと』「きいっ」命を受けると朱雀は厳蕃の右腕上で了承の鳴き声を発した。両翼を広げ腕から離れた。

 新撰組の翼ある隊士は、夜の帳が下りているのも構わず林のなかを飛翔していった。


『イスカ、あんたは逃げてくる者たちを頼みたい』イスカはその厳蕃の依頼を大きく頷くことでのんだ。

「新八、総司、平助、一、八郎、厳周、わたしに力を貸してくれ」

 厳蕃は日の本ここくの言の葉にきりかえた。

「わたしたちは逃げる者たちに味方する。軍を相手取ることになる」

「相手に取って不足なし。わかっています、副長の不殺の信念は護ります」

「盛大に引っ掻きまわしてやろう。ゆくぞっ!」「承知っ!」

 厳蕃の号令以下、全員が相棒に拍車をかけた。

 鞍上の異国人たちの相貌には夜目にもはっきりと不敵な笑みがみてとれたのだっった。

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