面白集団(ファニー・ガイズ)の正体
『こんなおかしな連中だが、その正体は遠いジパングという国のサムライたちなんだ』
『サムライ?それはなんでしょう?』
砂浜で異国人たちの鍛錬を眺めながらフランクがジムに教えてやった。ジムは昔の習慣が抜けぬらしく、つねにおどおどしている。そして、できるだけ違う人種とかかわり合いにならぬよう努めている感が強かった。白人と瞳があっただけでも災難が降りかかるのだ、無理もない。
『百聞は一見にしかず』フランクはにやりと笑うと土方のいる方へと歩いていってしまった。
『そんなにびびる必要などない。なぜなら、ここにあんたのことをどうこうするやつなどいないからだ。 相棒の背をみながらスタンリーがいった。ジムの肩をぽんと叩く。ジムの巨躯がびくりと震えた。
『すまん、驚かせるつもりはなかったんだ』スタンリーは驚いて両の掌を上に向け他意のないことを表現で示した。
『どうした?スタンリーがなにか失礼なことをしたんじゃないか、ジム?』フランクが土方と厳蕃を連れて戻ってきた。
『ち、違います・・・。おれが・・・』ジムが口ごもった。それをよんだ土方は秀麗な相貌にやさしい笑みを浮かべ、ジムの肩に掌を置いた。
『いままではいままでだ。そうだろう、ジム?ここにはあんたと同じ異人しかいない。ま、この二人は違うが、いまではこの二人も同じようなもんだ』スタンリーとフランクを指差す。
『白人からみればおれたちは黄色い猿だし、スー族のイスカとワパシャは野蛮な原住民だ。だからなんの気兼ねもいらないし、怯える必要もない。もっとも、馬鹿が多いから馬鹿がうつらない様そこだけ気をつけてくれればいい』
義弟の言に厳蕃がくすりと笑った。
『サムライがなにかを教えてやってくれといわれた。われわれは、故国で主君に仕えさまざまなものを信じ護ってきた。いまではその仕えるべき主君がいなくなってしまったが、信じ護る、という点においてはいまでもかわりはない。それはおのおので異なる。が、その根本的な精神は同じだ』
厳蕃は説明してから背後を振り返り、自身の息子と甥を呼び寄せた。
「師匠、おれたちだってみせたいよ」永倉と斎藤が近づいてきた。ちょうど厳周が「関の孫六」を、厳蕃自身は「村正」を帯びているところであった。そして土方も「千子」を帯びようとしていた。
「おいおい、なにゆえ戦意を剥きだしにしておる、新八?ただの型だ。わたしと息子は柳生、義弟と甥は疋田、それぞれの陰流の型を披露するだけだ。真剣勝負ではない」
「まさか!おれだって疋田の型はちゃんとできますよ、師匠?」永倉は執拗だった。斎藤も口唇の外に漏らすことはないが心情は「がむしん」と同様だろう。
「わたしは承知しておる。なれど、おまえたちがすればほかの者もやりたがるだろう?そろそろ鍛錬の成果を結果としてみたいはずだ。いまはこらえてくれ。落ち着いたらまた試合をすればいい」
永倉と斎藤は相貌をみあわせた。それから背後を振り返った。いつの間にか全員がこちらをみている。どの心情も自身らと同じであることがその表情にありありと浮かんでいる
「約束ですよ、師匠?」永倉はごつい両肩を竦めながらいった。「必ず」厳蕃は苦笑とともに応じたのであった。
それでも、せめてもというわけで永倉は自身の「手柄山」を幼子に託したのだった。
柳生親子による「柳生新陰流」はあいかわらず息の合ったと切れ味で全員を魅了したのはいうまでもない。そして、驚くべきことに土方もまた息子と「疋田陰流」を見事に遣ってみせた。
「これはまさしく神の奇跡だね」
にやにや笑いで称讃するのは沖田だ。そして、その髪の毛をハンサムボーイの天城がハムハム噛んでいる。
『すごいだろう、ジム?』フランクもスタンリーも鼻高々だ。それをみたスー族の戦士たちが笑った。
が、自身らもまた誇らしいのは同じである。
『凄い、素晴らしい・・・』
はじめてそれをみたジムは、感動のあまり幾度も幾度も系統の違う神に感謝の祈りを捧げたのだった。




