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非情なる一蓮托生

「ええっ!一日メイ・ウイ・ハブ・ア自由時間・フリー・タイム・トゥデイ?」

「なにもそんなに驚くこたねぇだろうが、平助?物資の補給、それに昨夜出会ったジムっておとこのことも考えにゃならん」

 朝食時であった。久しぶりに紅茶ティーやらホットチョコレートやらを愉しみながら、土方から昨夜のことをきかされ、そのついでに本日の予定もきかされた。ほとんどの者が藤堂と似たり寄ったりの表情かおになった。

「といわれても、結局は鍛錬だろうがな。それにしてもずいぶんとさっぱりした表情かおだな、おめぇら?」

 信江が若い方のヤング「三馬鹿」を連れて席を外した。溜まっている洗濯を片付ける為だ。

 土方はそれをしっかりと確認し、それでもしばしときを置いた後にかぎりなく声量を落としていった。みまわした面子はフランクにスタンリー、元祖「三馬鹿」と島田と山崎だ。

でっウエルどうだったハウ・ワズ・ユア・ゴーイングおまえたちガイズ?』さらに声音が小さくなったものだから、問われた側は丸卓テーブルの向こうから体躯ごと耳朶を近づけるか椅子ごと近づけねばきこえぬほどであった。

「はあ?知りたきゃあんたも体験すりゃいいだろう、副長?」

 永倉は丸卓テーブルをはさんだ向こうから「ふふん」と鼻を鳴らしながら嘯いた。

「新八、一蓮托生って知ってるか?」土方は丸卓テーブルの上に両の肘をつき、指を重ね合わせた。

「ふふっ、連座ってのもありますよ」沖田だ。

「同腹一心、というのもありますね」相馬だ。

「えっ、なにそれ?腹上死ってこと?」と藤堂。「おめぇはだまってろジャスト・シャラップ、馬鹿平助っ!」土方と永倉。

「ひでぇよ、二人とも」

「兎に角、おれに色事のことで災難が降りかかってみろ、息子と義兄と甥を含めここにいるおとこ全員にもそれが降りかかることになる。心しておけ」

 それは、鬼に備わった予言の能力ちからでもあるかのように全員の精神こころに響いた。それからしっかりと心身に植えつけられた。

「ならきいてくれるな、副長。おれたちを巻き込まんでくれ」原田だ。

「そうだな。くそっシット、想像すらできぬとは・・・」

 だれかが憐みの呻きを発した。

「でっ、そのジムってのは?なにもんだ?大丈夫なのか?」「副長の息子は動物だけでなく人間ひとも呼ぶのですね」永倉につづいて伊庭が面白げにいうと幾人かが同意の笑声を上げた。

『息子が連れてきたから問題ないだろう?どうやら住むところを追われて南部から流れてきたらしい』

 土方は銃遣いたちにも理解できるよう英語でいった。

『黒人か・・・。おそらく戦争で主人から解放されたはいいがほっぽりだされて流れるしかなかったんだろう』『そういうのは多い。深刻な問題だな。南部だろうと北部だろうと白人われわれの黒人に対する扱いはそう大差ない。かれらは仕事すらしたくてもできない。差別がそれを与えないからだ』

 スタンリー、そしてフランクの説明をききながら、土方は国務長官のハミルトン・フィッシュとの密談を思いだしていた。

 国務長官も同じことをいっていた。

 そうか、さっそく直面したわけだ。土方は指先で形のいい顎をこすった。それは考え事をするときの昔からの癖だ。


『鍛錬もいいですが砂浜で野球ベースボールってのはどうでしょうか?砂地は足腰を鍛えるのにちょどいい。それに水泳も加えれば全身運動になります』

 厳周が英語で提案した。野球ベースボールというところでフランクとスタンリーも誘っているのだ。

 道具はニックから人数分以上譲ってもらっている。

『おおっ、いいねえ。新しい仲間の歓迎会ウエルカム・パーティーがわりだ』

『その後はやっぱ呑み会だな?』

『おうとも!ジムってのは酒に強いかな?』

 催し物イベント好きの元祖「三馬鹿」が張りきっているのをみながら土方は驚いた。

 まだみたこともないおとこのことをすでに仲間扱いしている。自身の息子が連れてきただけでだ。

 しかもそれは元祖「三馬鹿」だけにとどまらず、ほかの者もうれしそうな表情かおで話にのっている。

 土方はそれが心底可笑しかった。なぜなら、自身もジムを受け入れるつもりであったからだ。

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