健康男子
「やはりこういうことは好いた女子と自然な流れで経験すべきであろう?」
「丞兄のいうとおり。日の本の女子と違ってすごそうだし・・・」
娼館までいったものの、そこで働く女性たちを目の当たりにし、若い方の「三馬鹿」はすっかり怖気づいた。玉置などは腹が痛い、とまでいいだす始末。みるにみかね、山崎、そして伊庭が擁護した。
「魁兄は?大柄な女性も多いからちょうどいいんじゃない?」
藤堂がいうと島田はまんざらでもない表情で頷いた。「せっかくだから」と言もすくなめに応じた。
「おいおい厳周、どこへゆく?」
「いやー新八兄、わたしも遠慮しておきます。この勝負はわたしの負けってことで」
「なんてこった!尾張柳生の当主にして尾張藩主の元剣術指南役が異国の女子をまえに尻尾を巻くってのか?」
「なんとでも仰って下さい、左之兄。わたしも丞兄に同感です。惚れた女子以外はどうも・・・」
「せっかく師匠が愉しんでこいっていってくれてるのに?理解のある親父じゃないか?」
「お忘れですか、新八兄?父はことこういう面は奔放すぎるのです」厳周は苦笑した。そしてこういうことにはまだ未熟で若すぎる弟分たちを促した。
「せっかく外出したんだ。鍛錬でもして宿に戻るとするか?どうです、八郎兄?」
「あっ、そっちがいい。さっすが厳周兄」まだまだこういう点では子どもなのだ。腹が痛いといっていた玉置まで途端に大はしゃぎしだした。
伊庭も鍛錬のほうにまんざらでもなさそうだ。
「おいおいどうなってるのかね、こいつらの頭のなかは・・・。まっ、漢としてはごく当然の感覚を持っているのがおれたちだけってわけだ。いこうぜ野郎ども」
永倉は心底呆れた表情で生真面目組を揶揄した。それからくるりと背を向け娼館へと向かっていってしまった。スタンリーとフランクはすでになかに入ってしまっている。永倉を慌てて追い掛ける島田と残りの馬鹿二人。そして山崎も悠然と歩きだした。
「えっ、丞兄もいくのですか?」先ほどの言と行動が真逆なのに驚いた厳周が尋ねると、山崎は歩を止めくるりと振り向いた。
「忘れたか厳周?わたしは密偵だ。あらゆるところに潜入し、駆けまわって情報を集める。それが一番よく集まるのが酒場やこういう色事の場所なのだ。女子を抱く為ではない。先ほどのはあくまでもまだまだ子どもの鉄らには、という意味だ。では情報集めにいって参る」
山崎はにんまり笑うと颯爽と去っていった。
「なるほど・・・」厳周がふむふむと指を顎にあてて感心しているところに「まさか!」「真面目に?」「やばい!」|若い方の「三馬鹿」が同時に叫んだ。
伊庭が噴出した。厳周はわざとだまされた振りをしてやったに違いない。おそらくは・・・。
「さぁ鉄棒を取りに戻ろう。せっかくだ、おれたちはおれたちなりの方法で愉しもう。覚悟しておけよ、おまえたち?」
伊庭が四人をみまわしつつ宣言した。
「へっ?わたしも、ですか?」厳周の独語のごとき呟きに子どもらが笑った。
「やっぱ師匠の子はぼけ、だよな」大変無作法に叫んだ市村の口を、残る馬鹿二人がそれぞれの両の掌でふさいだ。
「そうか・・・。わたしはぼけもまた継がねばならぬのか・・・」
さらなる厳周のぼけに、伊庭は一発喰らいされ、娼館の前で腹を抱えてしばらく笑いが止まらないのだった。




