Let's lose their virginity
湖畔の町には数件の宿屋があり、一番大きな宿屋は一行を充分収容しあまつさえおもてなしの精神も相当なものだった。
とりあえずは二人一組で全員の部屋割りを終え、夕食を戴いた。
旅にでてから体験したことのない豪勢な夕食に舌鼓をうちながら、全員が森で野営している四人に後ろめたさを感じずにはいられなかった。
四人は缶詰と煮だしてどろどろのコーヒーの夕食を摂っているだろう。
『四人分を別途包んでもらえませんか?』
土方は宿の主人にお持ち帰りを頼んでみた。どうやら宿泊客の多くが弁当をもって出発するらしく、このときも笑って快諾してくれた。
無論、ホットチョコレートの注文も承ってくれ、白き巨狼を満足させたことはいうまでもない。
「あとでもってゆこう」
土方が妻と話している横で、若い方の「三馬鹿」は三人そろって相貌を真っ赤にし、あきらかに狼狽していた。
元祖「三馬鹿」に夕食後の自由時間について話をもちかけられていたのだ。
「案ずるな。この原田左之助がおまえら弟分の筆おろしの助けをしっかりやってやる」
「そうそう、大船にのったつもりでいろって、なっ?」
「せっかく「鬼の副長」の許可がでたんだ。それにこの先、こんな機会に恵まれるとはかぎらねぇ。まっ、亜米利加人だってところがひっかかるかもしれねぇが女子は女子、立派に男児の本懐を遂げてみせろや」
藤堂と永倉の激励に、まだ子どもの域にある三人はますます相貌を真っ赤にした。
「やめねぇか馬鹿どもっ!食卓でする会話か?それに妻がいるだろうがっ!」
土方の大音声が宿屋の食堂内に響いた。先ほどまでテンガロンハットと塵芥にまみれたシャツにズボン、乗馬靴姿のほかの宿泊客数名がいたが食事を終えいなくなっていた。
「だってよ、副長・・・。あんただって昔は盛んだったろう?」
「そうそう、日野にいた時分にはあっちの村の生娘、こっちの村の人妻、京にいた時分には島原の芸妓に祇園の太夫と・・・。おっと・・・」
「平助っ!」怒声と蹴りが同時だった。
全員が驚いた。土方の蹴りなどそうそうみられるものではない。間一髪、藤堂はその強烈迅速の渾身の蹴りを椅子の背に掌を置いて後方回転で避けた。空をきった脚は藤堂が座していた椅子の背を見事に粉々にしてしまう。
「すげぇ」幾人かが同じ単語を呟いた。
「あなたっ!」「いてぇっ!」
一喝とともに土方の尻にその妻の強烈な平手打ちが入った。女剣士の掌の一撃は蹴りにひけをとらぬ。
お尻ぺんぺん・・・。
全員が肝に銘じた。その罰はなにも命に従わないときだけに与えられるとはかぎらない、ということを。
「でっ、どうするよ、主計、利三郎?」「おれは木彫りしているほうがいいですよ、新八兄。どうも喰われそうだ」と野村が答えると相棒の相馬も苦笑とともに丁重に辞退した。
「じゃっ、総司に一君は?」結局、土方から頭部にしこたま拳固を喰らった藤堂が尋ねると沖田と斎藤もまた遠慮すると答えた。
「おまえらは?生真面目に素振りするなんてことねぇよな、八郎、厳周?」原田は断られることをわかりつつも誘うと、意外にも二人ともついてゆくという。
じつは二人には別に目的があったのだ。土方から若い方の「三馬鹿」を救うようにいいつかっていたのである。
元祖「三馬鹿」とフランクにスタンリー、山崎に島田(じつはこの二人も伊庭と厳周同様の使命を帯びているはずである)、伊庭と厳周、そして|若い方の「三馬鹿」は夕食後さっそく外出していった。
自由時間を異国の女性たちと愉しむ為に。




