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武芸十八般

 畜舎の物置に錆付いた鎌と鉄鎖がいくつも放置されていた。

 厳蕃は小さな鍛冶場を臨時に設え、放置された鎌と鉄鎖の錆を落とし、丹念に磨いて改良して鎖鎌を造った。厳周、斎藤、田村、そこに伊庭も加わり手伝った。

「鎖鎌術とは武芸十八般の一つに挙げられる立派な武術の一つだ」

 四本しか指のない掌に鎌を、反対の掌には鎖を、それぞれ握り説明する厳蕃。

 この日は朝からスー族の戦士たちが馬の番をしてくれている。そして、賊たちが奪い隠していた武器弾薬の整備と整理をスタンリーとフランクが行っていた。

 日の本組は朝から鍛錬。無論、流派の研究にも余念がない。家屋の前には充分な空間スペースがある。

 この日は信江も参加していた。

「使ったことのある者はいるか?」

 厳蕃は地面に腰を下ろして厳蕃をみ上げている仲間たちに尋ねた。

 柳生の一族をのぞく全員が相貌を左右に振った。

「師匠、武芸十八般ってどういうものがあるんですか?」

 掌を上げ質問する市村。厳蕃は一つ頷いた。

「鉄、想像でもいい、どういうものかいってみなさい」

 質問に質問で返され、市村は右頬の擦り傷を指先でいじりながら頸を右に左に捻った。

 体術の練習中にまともに地面と接吻キスしてしまい、頬を擦り剥いてしまったのだ。

 ここのところの鍛錬は必要以上に熱がこもっていた。それは特定のだれか、というわけでなくだれもが等しくである。ついつい過熱しすぎてしまいその所為で怪我人が耐えなかった。お蔭で山崎が大忙しだった。その山崎自身もあばらにひびが入っていた。

「うーん・・・。剣術?槍術、体術、弓術・・・」そこまで答え、それから両肩を竦めた。

 厳蕃はその市村をみながら思った。筋肉がつき体躯ができあがりつつある、と。

「馬っ鹿だな鉄、たったそれだけか?」藤堂が笑った。

「平助兄、だったら残り十四個いってくださいよ」不貞腐れる市村。

「鎖鎌術だろ?」それはそうだ。すでに厳蕃がそう述べている。

「それからー・・・」そして両肩を竦めた。

「馬鹿鉄に馬鹿平助、だな?」原田だ。「馬術、薙刀術、棒術、杖術・・・」原田はそこまでで先の二人と同じく両肩を竦めた。

「ほう、ずいぶんとでたな。残りは剣術とは別に居合術もしくは抜刀術というのがあるし、砲術も入る。体術は柔術に置き換えることができるな。同心や岡っ引き、目明しが持つ十手も十手術という立派な術だ。鉄扇術というものもある」

 刹那、若手以外に負の感情が奔ったことに厳蕃だけでなく厳周と信江にも感じられた。

 厳蕃はすぐに思い到った。

 昔、まだ新撰組として活動しはじめた時分ころ「尽忠報国の士」と刻まれた鉄扇を振りまわしていたおとこがいたことを。そしてそのおとこは厳蕃の死んだ甥を陵辱したということを。

 その甥のいま一人の叔父と視線があった。さしもの厳蕃ですら息を呑んでしまったほどの激しい憎悪を、その叔父のに感じた。

 ほかの者たちからもそこまでではなくとも憎悪を感じ取れる。永倉だけがまだましな程度だ。

 芹澤鴨・・・。近藤と同じく局長でありながら暗殺されたおとこ・・・。

「あとは水術というのもある・・・」厳蕃は義理の弟の傍に歩み寄るとその肩に指が四本しかない掌をさりげなく置いて宥めた。

「分銅術に手裏剣術、忍術も入る・・・。もっとも、これだけのものを使いこなせる武芸者はそうそういないであろうがな」

 そして、生きている甥と視線があった。そう、辰巳以外にお目にかかったことはない。

「此度はみなに鎖鎌術を覚えてもらう。遣い慣れるまでは大変だが、破壊力と意表をつく攻撃ができる」

 柳生の一族は遣いこなすことができる。

 厳周と信江がお手本をみせた。

 これらはすべて辰巳から柳生の一族に伝授されたものである。

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