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「鬼の副長」の守護者

 賊たちは全員が生きていた。怪我の大小はあれどすくなくとも生命いのちに別状はない。

 準備していた縄で縛り上げ、それぞれ騎馬に跨らせた。それを二列にして一列ずつ縄で結んだ。まさしく連座だ。これで逃げようにも逃げられなくなる。

 そして幼子が騎馬たちにお願いした。

 町まで按上の人間ひとを運ぶように。そして、按上の人間ひとのいうことはきかぬよう。

 騎馬たちは即座に馬面を上下に振ってお願いをきいてくれた。


義兄上あにうえ、賊の連行とみなのことを頼めますか?」 

 出発するばかりとなった時分ころ、土方が義兄にいった。

 すでにその心中をよんだ義兄は義弟の申しでに小振りで秀麗な相貌を傾けた。

「父上、いました。朱雀がみつけました。隠れ家に向かっています」

 すでに朱雀はつぎなる指令を受け物見に飛んでいる。その小さな双眸と同化し交信していた幼子が父親に報告した。

「見張りと内通者を捕縛して参ります。さきに戻って保安官シェリフに真実を知らしめて頂きたい」

「なんだって保安官補?なんであんた自身が出張る?あんたがでる幕じゃねぇ」

 永倉が近寄ってきた。それだけでなくほかの者たちも寄ってきた。

「いいんじゃないですか、新八さん?たまには「豊玉宗匠」も動かなきゃ、昔日の感覚を忘れちゃうでしょ?」

「おいおい、そんな問題じゃ・・・」永倉が渋い表情かおでいいかけたのを土方自身が掌を上げて制した。

「馬鹿総司のいうとおりだ。いつもみなばかり危ない目にあわせているからな。たまにはおれも働かにゃいざというときに足手まといなるだけだ」

「馬鹿って、保安官補・・・・、最近、ひどすぎやしないですか?」沖田が不貞腐れた。微妙な緊迫感を和らげる為にわざと、である。

「一軍の将は後ろででんと構えてるもんだ。そういうもんなんだよ、副長・・。采配はあんた、実行はおれたち、これが当たり前なんだ」

「もういい新八、副長・・の気持ちもわからないでもない」厳蕃が静かにいうと、永倉ははっとしたようだ。「すまねぇ、つい。そうだな、あんたは昔からおれたちといつも前線で一緒だった・・・」

 そして、昔と現在いまで違うこと、それは土方自身に妻子ができたことだ。

「いや、気を遣わせちまって悪いと思ってる」永倉だけではない。仲間たちは土方になにかあったときのことをなにより怖れている。その妻や子を悲しませることを、仲間たちはもっとも怖れているのだ。

「それで、だれを同道させるんです、保安官補・・・・?」のんびりと問う沖田の後ろでその相棒の天城が沖田の髪をハムハム食んでいる。

「ほんと、愛されてるよな、総司?」くくくっと笑った藤堂の頭部に原田の拳固が飛んだ。

「まさか一人でいくってわけじゃねぇよな、保安官補?」原田は藤堂を殴ったばかりの拳を広げ、それをひらひらさせながら尋ねた。

 全員が土方に注目した。全員のが期待に輝き、表情かおはそれぞれ自己主張している。

 すなわち、自身を選んでほしい、ということを意思表示アピールしているのだ。

 土方は無言で全員をみ回した。正確には足許で地に片膝つき、両の瞼を閉じて朱雀ので賊の隠れ家アジトを探っている土方自身の息子を除いてだ。

 すでに決まっている。このわがままを考えついたときから同道させる者を決めていた。

 否、決める以前にそれが当然だと思っていた。ゆえに全員の無言の「連れてゆけ」の重圧プレッシャーに晒されようともいっさい迷うこともなければ構うこともなかった。

「斎藤、そして息子だ」

 その答えは指名された者たちも含めて全員をはっとさせた。

 不満や悔しさによるものではない。あるいは嬉しさや優越感といったものでも。

 土方自身が動くときに必ず傍に置いた二人。なにものをも斬り裂き、遣い掌を確実に守護する鋭刃。

「土方二刀」、この人選は確実にその昔の習慣そのものだ。

 土方の足許で幼子が瞼を開けていた。そうとわからぬよう伯父親子に視線を向けた。

(うまくやり過ごせ、自身の為にも・・・)伯父も従兄も意識の最下層で注意を促した。

 意識の最下層で嘆息する幼子。


『逃げようとしても無駄なことだ』

 幼子の父親が騎馬の按上で意識を取り戻した賊たちにいっていた。

『撃たれるか射られるか、あるいはこのでかい人喰い狼に喰い殺されるかだ』

 その一言で白き巨狼も同行から外されたことがわかった。

「グルルル」致し方なしに狼っぽっく・・・・・唸り声を発して賊どもを震え上がらせる白き巨狼。無論、その心中は穏やかではない。育て子のことを案じているからだ。

 幼子はふたたび嘆息した。これで孤立無援、絶体絶命。ある意味、それらの言の葉ヴォキャブラリィほどいまの状況シチュエーションにぴったり当てはまることはなかろう。

 

 父に抱き上げられ富士の鞍上に乗せられた幼子を、柳生親子と島田が複雑な想いでみつめていた。


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