威風堂々
永倉、原田、沖田、斎藤、伊庭がそれぞれの相棒の鞍上でライフル銃を撃つ。それは確実に賊の腕か脚に当たった。野村と相馬は弓矢だ。二人の放った矢もまた確実に賊の腕か脚を射抜く。
賊たちは撃たれるか射られるかすると鞍上から転がり落ちるか耐え忍ぶかだ。
そして、さらにいくつかの騎影が迫る。藤堂と若い方の「三馬鹿」だ。
四人は自身らの相棒の鞍上から跳躍すると鞍上にいる賊に蹴りを入れて地に叩き落した。相棒が駆け寄ってくるとそのまま賊の鞍上から相棒のそれへと跳躍して飛び移った。
それでもまだかなりの人数が無傷で残っている。
そして真打登場。馬車から騎馬に乗りかえ、土方と島田が騎馬を駆る。土方は甥の馬である大雪を駆っており、鞍上土方の後ろに厳周がいる。そして、白山の島田の後ろには厳蕃が。
すでに賊を倒した永倉らはその場から離れ散開している。
そのようななか、幼子とそれが騎乗する富士だけが静止して戦いの様子をじっと眺めていた。
幼子は鞍上でずっと立ったままだ。
そして、幼子はおもむろに小さくて分厚い右の掌を晴れ渡った空へと突きだした。先日、弁護士の息子に折らせた中指はほぼ完治している。
そのとき、まだ無事な賊たちの騎馬がいっせいに動きを止めた。疾駆するなかで急に停止したものだから、勢いあまって鞍上から転がり落ちる者もいた。
賊の騎馬たちは、雄雄しい嘶きとともにその場に棹立ちになった。鞍上の騎手を振り落とそうとでもいうようにだ。実際、騎馬たちは幼子のお願いによってそのように動いているのである。
これには乗馬慣れした賊たちも敵わず、大地にころりと振り落とされるしかない。そこへ柳生親子と幼子が襲い掛かった。三名とも素手、である。
三名の毎夜の鍛錬は剣術よりもむしろ体術が中心である。体術の基礎が剣を振るうそれに繋がってゆくからだ。
柳生の血をもつ三名の体術はすばやく重い。蹴りであろうと殴打であろうと投げ技であろうと相手を一瞬にして気を失わせてしまう。それは一方的な攻撃であった。
散開した永倉らが騎馬を寄せてくるまでに、まだ無事であった賊二十名以上は大地に転がりそれに接吻するかお天道様に情けない気絶貌を晒すかのどちらかであった。
この間わずか四半時(三十分)、一方的で完璧な勝利に終わった。
土方保安官補は、正義の名のもとに立派にその職務を果たしたのだった。




