騎馬戦
「おいおい、相手は二十名程度の東洋の猿どもだろう?なにも全員でいくこたねえだろうが?」
「うるせぇっ!いやならはずれな。そのかわり獲物にありつけねぇだけだ」
「チッ!なに様だと思ってやがる?軍など遠い昔の話。まだ上官風吹かせてやがるのか」
「くそっ、眠いぞっ!」「腹減った」「馬鹿かこいつは?さっき喰ったばかりだろう?」
騎馬を走らせながら漢たちはそれぞれが思いつくままに怒鳴り散らしあっていた。
元南軍の兵卒たち。要領よく戦場を逃げだしたり隠れたりして過ごすうち、いつの間にか同じ境遇の仲間たちが集まっていた。かれらにできることはすくない。ゆえにてっとりばやく悪事を働いているというわけだ。かれらにしてみればこれも生きる為の知恵であり手段なのだ。
「抜かるなよ、猿どもも銃を持ってる。それに、カタナという鋭い剣を遣うらしい」
だれかがいうとほかの者たちがいっせいに笑った。臆病だ、とでもいうように。
この盗賊集団に首領らしい者はいない。ゆえにいつもそれぞれが気の向くまま欲望のまま動くのだ。そこに統率や連携などかけらもない。非力な旅人や町や村の人々相手であれば、軍属にあって武器と戦い方を学び、それらの経験のあるかれらにとってはたとえまとまりがなかろうと十二分に通用するというわけだ。
だが、今後はどうなるかわからない。軍がでてくればこれまでのようにはいかない。そろそろこの辺りから移動すべき、と話し合っているところである。北上して加奈陀にゆくもよし、南下して墨西哥にゆくもよし。
いかんせんまとまりがない為、一つのことを決するにも時間を要するのだ。
「みえてきた。あれだっ!」
先頭近くの何名かが叫んだ。
「よしっ!撃て撃てっ!」
鞍上でいっせいにライフル銃を装填して構える。それをすばやく行えるだけの技術はある。
ただの平原だ。土とところどころに生えている草に低木くらいで周囲になにもない。そんなところを馬車と騎馬が疾駆している。ちょうど盗賊たちの眼前を横切ってゆく。おしつつめば獲物は一巻の終わり。それどころかそれまでに蜂の巣にしてしまうかもしれない。
だれもがそうたかをくくっていた。
「ぎゃっ!」
先頭を走っていた漢が短い悲鳴とともに鞍上から吹っ飛び落馬した。無人となった騎馬はそのまま獲物の方へと駆けてゆく。
そこでやっと「パンッ」と短く乾いた発射音が馬たちの蹄の音に負けじと平原に響いた。
吹っ飛んだ漢は、狙撃手であるスタンリーの狙撃によって撃たれたのだ。
「くそっ!気をつけろ」そう注意した漢もまた短い悲鳴を残して鞍上から地に叩きつけられた。右側の肩をスー族の戦士ワパシャの放った矢に射抜かれて。
「散れっ!かたまるなっ、散開しろ!狙い撃ちされるぞっ」
そして、その漢もまた大地の抱擁を受けることとなった。山崎の射撃によって。
「おいっ!くるぞ」
全員が気がついた。数頭の騎馬が自身たちに向かって疾駆してくる。
「気をつけろっ!カタナで斬られるかもしれん」
そう注意した漢もまた狙撃されて鞍上から転がり落ちていった。
双方の距離が縮まりつつある。




