表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

157/526

闇に潜みし妖(モンスター)

 その小さな町ですら酒場バーと娼館があった。近在の町や村、そして旅のおとこたちがそこにやってきては酒を喰らい娼婦を抱いた。

 その夜もいつものようにはじまった。そして翌朝、小鳥が囀るころにはやはりいつものように長い夜が終わるはずだ。

 そう、昔からと同じように、昨日も一昨日もそのまた一昨日と同じように、この夜もすぎてゆくはずだったのである。


 この夜、騎馬隊トルーパーが村に駐屯していた。とはいえ、騎兵もおとこ、町の人々はてっきり任務の途中のお慰みかと思い込んでいた。だが、その予想は違った。

 アメリカ陸軍第七騎兵隊はなんの任務も帯びておらず、小隊長エリオット・ノートンとその部下たちは勝手な行動の途中でその村に立ち寄っただけだ。無論、理由はその町にくるほかのおとこどもと同じだ。

「騎兵さん、いいおとこねぇ」酒場は宿屋も兼ねていた。二階にある寝室ベッドルームの一室。寝台ベッドの上で寝そべり煙草シガレットの煙をくゆらせながら、娼婦が客にお愛想をいった。が、客のおとこはそのようなわかりやすいお愛想にいちいち反応するのも面倒とばかりそれを無視した。

 寝台ベッドの上でことの最中もその騎兵はほかのことに気を取られているのか上の空であった。

「あら?消えた。まったくもう、この古洋燈ランプといったら・・・。騎兵さん、ちょっと待ってておくれ、蝋燭をもってくるから」

 娼婦のそれは独語に終わった。騎兵はやはり上の空だったからだ。

 寝台ベッドから娼婦が下り、小さな寝室ベッドルームからでてゆくと、騎兵はごろんと天井に相貌を向けて寝転んだ。煙草シガレットは床の上に指で弾き飛ばした。小さな小さな赤い光が床の上で弾け消えた。この夜は月も星も雲に隠れ、窓から差し込むのも夜の帳のみ。室内は真っ暗だった。闇にが慣れるまでにしばし時間ときを要する。騎兵は考えごとしながら瞼を閉じた。それを開けていても閉じてもみえないことは同じだ。

「・・・!」

 騎兵はそのときはじめて気がついた。部屋に何者かが侵入しており、その侵入者がいとも簡単に自身の生命いのちを握っているということに。

『その異相よく覚えているぞエリオット・ノートン?名はエリオット・ノートンで間違いなかろう?ミスター・エリオット、かようなところでなにをしている?』

 それはきれいな英語だった。すくなくともアメリカの発音アクセントなどではなくイギリスのそれであった。侵入者はエリオット・ノートンの名を知っていた。

『ミスター・エリオット、「竜騎士ナイトオブドラゴン」を知っているか?欧州ヨーロッパ、そして東の国々で名を馳せた暗殺者アサシンに与えられた称号だ』

 問いは問いではない。なぜなら、騎兵は自身の頸を握られており発声するどころか頷くことすらできないからだ。

『ずっとわれわれをつけ狙い追おうとしているな?もっとも、まったく見当違いをただ彷徨っているにすぎぬが。ミスター・エリオット、わかっているな?「竜騎士ナイトオブドラゴン」の称号をもちし暗殺者アサシンタツミはろくでなしの騎兵バスタード・トルーパーの掌に負える獣ではない。たったこれだけの数の小隊など一瞬にして皆殺しだ。見逃してやるのはこれで二度目。三度目はないと思え。軍に戻り大軍を率いて来い。なれば相手をしてやってもいいぞ』

 騎兵は仰向けでを天井に向けたまま身動ぎ一つできないでいた。恐怖や不安を感じる以前に思考そのものが停止してしまっていた。


「騎兵さん、あれ、眠っちまったのかい?」寝室ベッドルームドアがそっと開き、蝋燭の淡く細い光が室内に射し込んだ。

 同時に騎兵はすべてから解放された。

 寝台ベッドの上で上半身を起こし、騎兵は荒い息をついていた。うたた寝してしまったのかのように頭がボーっとしている。

「これはなんだい?お護りかい?」

 騎兵が寝転がっていた枕元から娼婦がなにかをつまみ上げ、茫然としている騎兵の眼前にそれをかかげてみせた。

 小さなそれは、あの夜の宴で「東洋のモンスター」に手渡された騎兵自身が発砲したライフル銃の弾丸であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ