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剣の道

「「柳生の大太刀」は本来はあの馬鹿長ったらしい太刀を自身の掌のごとく扱えることで剣術の基礎が身につく、という戒めのようなものです。ですが、あまりにも馬鹿長すぎて扱える者がおらず、それでいつの間にかまことしやかに霊剣と称えられるようになったのです。無論、もともと宗祖石周斎が孫の一人である尾張柳生の祖柳生利厳に授与されたもの、剣神つるぎがみとしての力もあったかもしれませぬが、死者を呼びだすようなそんな異種の代物アイテムではありませぬ。壬生狼、あなたがからかうのでみなさん混乱されているではないですか?」

 柳生の女剣士は隣で座して大欠伸をしている白き巨狼を嗜めた。

『失礼なことを申すでない。すべてを伝えなかっただけだ』

 人間ひとだったらへらへら笑いながら、という表現になるに違いない。白き巨狼の大きな口の両端が歪んだ。

『神懸り的と申したのは真だ。それがなんの神かを申さなんだだけだ』

 全員が白き巨狼をみていた。

「柳生の大太刀」にはあの子自身の力が籠もってしまっている。京であの子が握ったことにより、「柳生の大太刀それ」は真の霊剣と化したのだ。

 あの子はきっとそうとは気がつかず石周斎や三厳、利厳などの古豪と剣を交えたのだ。そう、あの子自身がそれらを現世に呼びだしたのだ。巫女の血をひくからでもあろう。巫女が現世に呼んだり降ろしたりできるのは神だけではないのだ。

『まぁあの子は巫女の子でもあるからな。そちらの力のほうが大きいのやもしれぬ』

 神のほうは濁し巫女の子のほうを強調した。あの子自身が神であるということを告げるにはまだ時期タイミングが早すぎるだろう。

 信江は白き巨狼に告げられるまでもなくすでにあの子であるわが子のことがわかっている。信江もまた巫女の血を濃くひいているしなにせ生みの母親なのだ。

 ゆえに白き巨狼に同調した。

「結論を申し上げますと、みたり感じたりする力があれば挑戦者以外にもみえるはずです。ですが兄の申すとおり「柳生の大太刀あれはそういうものではないのです。現れて「わが主」やら「兄貴分」と旧交を温めるというような和やかなものではないのです。新八さんや一さん、そして総司さんが挑戦されることに反対は致しませぬ。それは兄も同じなはずです。ですが、あの子会いたさの為なのでしたらどうかお止め下さい。わたしも兄も同意しかねます。あの子はだれよりも剣の道を重んじ尊んでいました。壬生狼の会った無の者があの子を指しているのでしょう。そう、あの子にはたしかになにもなかった。あの子は無そのものでした。ですが、あの子は無のうちにあって剣を神聖化していたのです。それを汚したり壊したりすることはけっしてありませぬ。みなさん、どうかそのことをご留意下さい」

 さすがは信江だ。よくわかっているし核心をはぐらかしながらの説明もうまい。

 その隣で白き巨狼は心底感心した。『女子おなごはずるい。口がうますぎる。それになにもかもがわかりすぎておる。否、わが正妻の妹だからか?わが正妻もどれだけうまくやろうとも浮気を察知するに長けておったが・・・。わが主の土方も生涯ほかの女子おなごと戯れることはできぬであろうな』と。刹那小さくて分厚く荒れのひどい掌に口吻を力いっぱい掴まれた。

「壬生狼、ずいぶんとずれていますよ?」そしてそのぴんと立った大きな耳朶に囁かれた。

 お馬鹿な益荒男神でもつぎはさすがだ、と思うに止めるだけの学習能力は備わっていた。


「その気持ちだけもらっておく。ゆえにおめぇら、無茶すんな」

 どこか残念そうな響きのこもった礼が永倉、斎藤、沖田へと述べられた。

「いいや、やはりおれたちはやる。なにもあんたの為だけじゃねぇ。おれたちは純粋にあいつに敵わずとも唸らせたいんだ。それがあいつがおれたちに継いでくれた技と道に対する礼だ」

 土方をまっすぐ見据え、永倉はそういった。隣で斎藤もまたあらためて決意したかのように大きく頷いている。

「それでいいな、総司?それから左之、おめぇもだ。槍遣いの腕も必要だ」

「へっ?おれもか?」「当然だオフ・コース左之。おめぇもがっつりあいつから伝承されてるだろうが。なんなら、平助、八郎、おめぇらも掌を貸せ。おめぇらは生命いのちを助けられてんだ。元気だってことをみせつけてやれ」

 藤堂は伊庭と相貌かおをみ合わせた。そうだ、そのとおり。挑戦までは無理でもそれに向けての鍛錬をしよう。進行中の「自身らの流派」創り同様意義と意味が大いにある。

「というわけだ、土方さん。なんならあんたもどうだ?疋田陰流と天然理心流、あいつにみせつけてやれ 」

「そうだな、おれもやってみるか」

 土方の意外な答えだ。こと剣術にかけては及び腰の土方だ。意外すぎて全員が驚いた。

 やはりあいつに・・・。

 それが純粋な剣の道によるものではないことを、土方自身の妻や永倉たちにはわかっていた。そして暗黙のうちにそれを心の奥底へと封じ込めたのだった。

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