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身内

「そうか・・・」

 合歓木の下で報告を受け、土方は一つ頷いただけだった。

「あいかわらず可愛くないですね、「豊玉宗匠」?うれしいくせに・・・」

 枝の上で両脚をぶらぶらさせながら沖田が鹹かった。その隣では沖田の言の葉の愛弟子が同じようにちょこんと座って小さな両脚をぶらぶらさせている。

 土方親子と柳生親子、沖田に斎藤、「三馬鹿」が集まっていた。

 土方は自身の依頼で説得を試みた結果報告をきいていたのだ。

「八郎兄に笑い飛ばされました。「わたしを追いだす気か?ならば力ずくでやってみろ」と」

 伊庭と仲の良い厳周の報告にも土方は頷いただけだった。

 伊庭との付き合いも長い。そういうのはわかりきっていた。

「馬鹿ばっかだよな、やっぱり」

 藤堂がのんびりとした口調でいった。「平助、おまえとは違う意味でな」とすぐに突っ込んだのは斎藤だ。めずらしいことではあるが。

「うれしそうですね、あなた?」

 岩の上に座っている夫に妻が笑いながら尋ねた。夫ははっとして表情かおをあらためた。

「遅すぎるぜ、副長。表情かお、にんまりしすぎだ。ま、馬鹿かどうかはともかく、みな一緒にいるって信念にかわりはない。もう尋ねる必要もないだろう?そんときがくりゃ、それぞれがそれぞれの意思と決意を示し離れてゆく。おれたちはそれを祝福すればいいだけのことだ」

 永倉が身軽に枝に飛び乗ると、途端に枝が悲鳴をあげた。

 沖田とその言の葉の愛弟子の眉間に皺が寄った。

「おかしなものだな、ここにいる者の意志は問わぬのか?」

 大木に背を預けていた厳蕃に問われ、その義弟は心底驚いた表情かおをした。

 そんなこと考えたこともなかった、とでもいうように。

「・・・。そうでした。ですが、ここにいるのは・・・。なんというか・・・。もう二度と手放したくない。本人の意志など関係なく、おれの傍にいてもらわなきゃならないのです。たとえ縄や鎖で縛りつけようとでもです」

 土方は沖田、斎藤、「三馬鹿」を順番にみた。それぞれもしっかりとみ返す。

 二度と手放したくない・・・。土方にとってこの五人は自身そのもの。それ以上でも以下でもない。

 そしてそれは五人も同じこと。それぞれがそれぞれそのものなのだ。

「心配すんなって、副長。泣いて叫んだっておれたちはあんたにおんぶに抱っこされつづける」

 原田が笑った。

そのとおりイグザクトリー。むしろわれわれのほうが副長を縛り付けるのだろうな」

「うーん、どうだろう・・・」斎藤につづいて沖田がいいかけると、土方も含めた五人がいっせいに突っ込んだ。「総司、おまえは黙ってろジャスト・シャラップ!」と。

 俳句のことをもちだすつもりなのがわかっていたからだ。

 だれかが噴出した。するとみなげらげらと腹を抱えて笑いだした。


義兄上あにうえ、そして厳周、迷惑でしょうがあなた方もです。もはやおれの一部。この連中とは違う意味でおれにはあなた方にいてもらわねばなりませぬ」

 自身のかけがえのない家族・・をみながら最愛の妻の兄とその息子に呟いた。

「ああ、承知している」厳蕃が言葉すくなめに応じた。なぜなら、いつどうなるかわからぬからだ。将来さきの約束などできるわけもないのだ。

「叔父上、坊が親離れしたがったらどうします?いつか両親や家族のもとから飛びだしたがったら?」

 ふと厳周がきいた。その視線は枝上の従弟へと向けられている。無論、従弟はこちらをみていた。

 それはない。なぜなら従弟は十歳とおまでしか成長せぬ。それに辰巳・・は二度と土方から離れることはない。二度と、けっして・・・。

「放しやしねぇ・・・。あいつ・・・を二度と失いやしねぇ・・・。あいつ・・・はずっとおれと、こいつらとともにいるんだ。ずっとな・・・」

 座した姿勢で自身の足許に視線を落としたまま土方が呟いていた。

 まるで呪詛のように同じことを呟きつづけていた。


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