01.私は可愛い
私は可愛い。
真珠のように白く艶やかな肌に、バラ色の頬。深い海の神秘を思わせる瞳。掬い上げると指の間からさらりと落ちる、金糸のような髪。熟れた果実を彷彿とさせる唇――
私を一目見た誰もが足を止め、呆然と立ち尽くし、魂を抜かれたかのように見惚れてしまう。当然だ。私はこの国の誰よりも美しく、可憐なのだから。
だから私は愛される。欲しいものはなんでも手に入れることができる。大切にされ、守られるべき存在なの。
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「エステル。ほら、お前にお土産だ」
仕事から帰ってきた父の手には、大きな青い鉱石が握られていた。普段は太い眉を寄せて小難しい顔をしているパシュテール伯爵も、私を見る時だけはだらしないほど目尻が下がる。その顔を見る度に、胸の奥が満たされるのを感じた。
父は鉱石を明かりに翳してみせた。思わず息を呑むほどの、光を抱えて透き通る青だ。
「まぁ、美しい……これを私にくださるの?」
「ああ。先日うちの鉱山で採れたものなのだが、これほどの物はなかなかない一級品だ。この色を見て、真っ先にお前の瞳が思い浮かんだ。宝石職人を呼んで、好きなようにするといい」
「嬉しい! お父様、ありがとう!」
潤んだ瞳を細め、頬を僅かに紅潮させて微笑んでみせると、父は満足そうに大きく頷いた。この表情の作り方を、私はもう何年も前から知っている。どこをどう動かせば人々がどんな顔をするか――毎日何時間も鏡の前に立って、身体に染み込ませてきたものだ。
誕生日は半年も前に過ぎた。特に祝い事の予定もないけれど、くれると言っているのだからありがたく頂戴する。
「お母様。どんな加工が良いと思う?」
父の隣で微笑んでいる母に尋ねると、彼女は私の頬にそっと手を添えて、ふわりと笑った。
「エステルはどんな色も似合ってしまうから、難しいわね。指輪やネックレスもいいし、耳飾りにするのもいいかもしれないわ。すぐに腕のいい職人を呼ぶように手配させるわね」
「ありがとう! それで――」
私はちらりと後ろに目を移した。私の二つ年上の姉、リアーナが貼り付けたようなぎこちない笑みを浮かべて立っている。
「お姉様にはどんなお土産があるの?」
わざとらしく口にしたつもりはなかった。本当に。ただ、リアーナの名前を出さなければ、この部屋の中で彼女がまるで最初から存在していなかったことになってしまう気がして――仕方なく矛先を向けてあげただけだ。
「あ……」
父の顔色が変わった。明らかにリアーナのことを失念していた顔だ。
「あー、その、リアーナには……近々何か……うむ……」
「お父様。私は高価な物は何も望んでおりませんので、どうかお気遣いなく」
歯切れの悪い父を気遣ったのか、それとも忘れられていた自分が居た堪れなくなったのか。リアーナは弱々しい笑みで一礼すると、部屋を出て行った。
姉のことは好きではない。あの控え目な笑顔を見ると、無性に苛立つのだ。卑屈に見えるし、ぼそぼそと喋る小さな声も聞き取りづらい。今だってきっと、悲劇のヒロインを気取って傷付いているのだろうと思うと、折角プレゼントを貰って楽しかった気持ちも興醒めだ。
「リアーナに悪いことをしてしまったな……」
「あの子には私から話をしておきますから、あなたはお気になさらずに」
ほら。父と母の顔からも笑顔が消えちゃった。この空気が、一番嫌いだ。私のための時間のはずなのに、私以外の誰かの気配で満たされてしまう瞬間が。
微妙な空気を払拭するように、私はとびきりの可愛い笑顔を浮かべてみせる。何度でも作れる、私の一番得意な顔。
「お父様、お土産ありがとう。一生大切にするね!」
ついでにハグもしておけば、父はイチコロだ。
今日も私は、愛されている。
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エステル・パシュテール。十六歳。カレンガル王国の北西部に位置する、数多の鉱山を抱えるパシュテール伯爵領の令嬢である。
鉱山では宝石となる鉱物だけでなく、魔力を宿した魔鉱石や、質の良い鉄鉱石も採れるため、武器職人や魔法使いも多く集まる賑やかな街だ。
父パシュテール伯爵は、卓越した経営手腕を持つ。父を陰ながら支える母も、有能な女主人である。それから跡継ぎとして父以上に忙しく方々を駆け回る兄のセレスタン。そしてリアーナと私。
セレスタンとリアーナは、前妻の子だ。私は後妻である母の子。前妻はリアーナを産んですぐ、病で亡くなったらしい。
両親とセレスタンは、私を可愛がってくれる。私が可愛くて愛想がいいからだ。私も三人が好き。私を守ってくれる有能な人たちだから。
リアーナには私を惹きつける魅力が何もないから、好かれたいとも思わない。
とにかくそんな家族に囲まれて、私はそれなりに楽しく、そして可愛く今日も生きている。




