EP 6
ハッピー・ドリームと、極道顔負けの裏処理
純金100kgを村長宅の地下室へ厳重に封印(塩漬け)し、龍魔呂とニャングルが息を切らして広場に戻ってきた午後。
ポポロ村の入り口付近が、何やら騒がしくなっていた。
「おいコラァ! 村長を出せ! ルナミス帝国とアバロン魔皇国から来た合同査察団様のお通りだぞ!」
下品な怒声と共に現れたのは、装飾過多な軍服を着たふんぞり返る悪徳役人と、その護衛として雇われているガラの悪い傭兵・ならず者たち十数人だった。
「最近この辺境のポポロ村が、酒やらタバコやらでボロ儲けしてるって噂を聞きつけてな! 査察に来てやったぞ!」
悪徳役人が下卑た笑いを浮かべ、ならず者たちが武器をチャキチャキと鳴らす。
「さぁ、とっとと隠し財産(金)を出せ! ついでに極上の酒と、村で一番上等な女も用意しろ! そうすりゃあ大目に見てやらんこともないぜェ!」
典型的な悪党ムーブで村人たちを威嚇する一行。
「……チッ。どこの世界にも、こういうハエみたいな奴らは湧くんだな」
龍魔呂が首をポキポキと鳴らし、黒い学生服のポケットから特殊警棒を取り出そうとした。
「キャルル、ちょっと下がってろ。俺が『鬼神流の腹パン』で教育してやる」
「龍魔呂さん、私も手伝います!」
キャルルもダブルトンファーに紫電を這わせ、ヤンデレのスイッチを入れようとした。
だが、その血の気の多いヤンキーとウサギの前に、フリフリのドレスがふわりと割り込んできた。
「まぁまぁ、龍魔呂さんにキャルル。野蛮な争いはいけませんわ」
世界樹の杖を持ったルナが、ふんわりとした笑顔でなだめる。
「ルナ? てめぇ、下がってろ。こいつらは言葉が通じるタマじゃねぇぞ」
「大丈夫ですわ。彼らはお疲れのようですから、私が大自然の恵みで『最高のおもてなし』をして差し上げます♡」
ルナは軽やかな足取りで、ならず者たちの前へと歩み出た。
「おっ? なんだこのエルフの別嬪は! 早速俺たちの夜の相手をしてくれるのかァ?」
下品に舌舐めずりをするならず者たちに向かって、ルナは純度100%の「善意」の笑顔を向けた。
「ええ♡ 皆さん、どうぞ極上の夢を見てくださいな。……お願い、『ハッピー・ドリーム』♡」
ルナが世界樹の杖を振るった瞬間。
ボコボコッ! と地面が波打ち、ならず者たちの足元から、巨大で不気味な紫色をした『食虫植物』のような花が一斉に咲き乱れた。
「な、なんだこの不気味な花は!?」
「ひぃっ!? 動くな、お前ら!」
役人たちが武器を構えるより早く、ハッピー・ドリームの蕾から伸びた無数の『触手』が、シュルルッ!と音を立てて彼らの首筋や脳天にピタリと吸い付いた。
「ギャッ……!?」
「な、何を……あ……あぁっ……」
直後、ならず者たちの様子が劇的に変化した。
武器を取り落とし、全員が目をトロ〜ンとさせ、口からダラダラとヨダレを垂らし始めたのだ。
「あへぇぇ……極上のイモッカだぁ……美味えぇ……」
「美女が……右にも左にも美女がぁ……俺は王様だぁ……」
「金貨の山だ! ギャハハハ! 最高の査察だぜぇぇ……」
触手から直接脳内に「彼らが最も望む欲望(酒・女・金)」の疑似体験(幻覚催眠)成分が注入され、全員がその場で立ったまま、完全に極楽浄土へとトリップしていた。
「ふふっ。皆さん、とっても幸せそうですわね♡」
ルナは、アヘ顔で幻覚に溺れる彼らの間を優雅に歩き抜けながら、悪徳役人の懐からゴソゴソと『税金の徴収書類』と『受領のサイン用羽ペン』を取り出した。
「さぁ、役人様。極上の女と酒の代金として、こちらの『ポポロ村の税金は向こう100年免除する(承認済)』の書類に、サインをいただけますか?」
「あへぇ……? あぁ、いいともぉ……こんなにいい思いをさせてもらったんだからなぁ……カキカキ……」
幻覚の中で完全に洗脳されている役人は、ニコニコしながらルナの用意した書類にサインを書き殴った。
「ありがとうございます♡ あと、迷惑料として皆様のお財布(全財産)も置いていってくださいね? 夢の代金としては破格ですわよ?」
「もってけもってけぇぇ……! 俺は一生ここにいるんだぁぁ……」
ならず者たちは幻覚に酔いしれたまま、自ら進んで財布や身につけている装飾品をすべてルナの前に献上した。
「はい、おもてなし終了ですわ♡ さようなら、役人様」
ルナが杖を振ると、ハッピー・ドリームの触手がスッと離れ、植物たちは地面の中へ消えていった。
「……ハッ!? お、俺たちは一体……」
正気に戻った役人とならず者たちは、極上の夢から強制的に覚め、ひどい二日酔いのような頭痛に襲われながらフラフラと立ち上がった。
「あら、もうお帰りですか? サイン、確かにいただきましたわ。気をつけてお帰りくださいね♡」
ルナが笑顔で手を振るのを見て、役人は「ひっ……! こ、このエルフ、恐ろしい魔女だ!」と悲鳴を上げ、部下たちを連れて一目散に逃げ出していった。身ぐるみ剥がされ、ポポロ村への不干渉を誓うサインまで残して。
「…………」
広場に残されたのは、役人たちから巻き上げた金品の山と、完璧な徴収免除の書類。
それを見つめながら、龍魔呂は咥えていたバレッドをポロリと落とした。
「……キャルル。お前、ルナミス帝国時代に同居を拒否して大正解だったな」
「でしょ? ルナの善意は、物理的な火事よりタチが悪い精神破壊なのよ」
「マフィアも青ざめる、完全犯罪の裏処理でっせ……」
ニャングルがガタガタと震えながら、ルナが巻き上げた金品を算盤で弾いている。
「幻覚を見せて自らサインさせ、金品を巻き上げて笑顔で帰す。……龍魔呂兄貴の拳より、よっぽど極道のやり口やないですか……!」
「ふふっ♡ 争いが起こらずに平和的に解決して、良かったですわね!」
当のルナは、純度100%の天然の笑顔で、空から降り注ぐ木漏れ日を浴びている。
「……一番えげつねぇのは、間違いなくコイツだわ」
最強の農業ヤンキーにすら「こいつには関わらない方がいい」と思わせる、底知れぬ狂気(善意)。
世界樹の申し子・ルナのポポロ村での生活は、周囲の胃を削りながら、まだまだ続くのだった。




