EP 4
錬金術ドリンクバーと、お会計の峰打ち
ルナキンの店内、ドリンクバーコーナー。
そこには、フリフリのドレス姿で無数のディスペンサー(飲料機械)の前に立つ、世界樹の姫君の姿があった。
「ええっと……メロンソーダと、カルピスを5:5で……。あら、少し色合いが寂しいですわね。もっと大自然の恵みを足してあげないと」
ルナはグラスを片手に持ち、もう片方の手で『世界樹の杖』を軽く振った。
「大地の息吹よ、この泉に更なる恩恵を……♡」
シュワァァァ……!
グラスの中のメロンソーダが突如としてエメラルドグリーンの眩い光を放ち、水面から「ピョコッ」と光り輝く謎の若葉が生えてきた。ただのジュースが、一瞬にしてエリクサー(特級回復薬)のような神々しいオーラを纏い始めたのだ。
「お待たせしましたわ、リリスちゃん。特製・大自然の錬金カクテルですわ♡」
「わぁ~い! いただきまーす!」
席に戻ってきたルナからグラスを受け取ったリリスは、躊躇なく一気に飲み干した。
「ぷはぁっ! む、むほぉぉぉぉっ!?」
直後、リリスの背中から後光が射し、ピンクのジャージが神々しく輝き始めた。
「な、なんですかこれ! 身体中から神力がドバドバ溢れてきますぅ! これならガチャの単発でSSRが引ける気がしますぅ!」
「ちょっとルナ! ドリンクバーで何生成してんのよ!」
キャルルがウサギ耳を逆立ててツッコミを入れる。
「ただでさえ出禁ギリギリなのに、ファミレスの原価率を魔法で狂わせないでよね!」
「お待たせいたしました~! チーズINドデカ・ハンバーグと、山盛りポテトです~!」
そこへ、店員が湯気を立てる鉄板を運んできた。
「お肉ぅぅぅぅぅ!!」
リーザの瞳が、完全に飢えた野獣のそれへと変わった。
彼女はフォークとナイフを構え、音速のスピードでハンバーグを解体していく。
「はふっ、ほふっ! んんんんん~っ! 溢れ出る肉汁! とろけるチーズ! パンの耳じゃない、本物のカロリーの味がしますぅぅ!」
顔中をデミグラスソースだらけにして号泣しながら貪るリーザ。
その凄まじいサバイバーの食事風景を、ルナは優雅にセットのサラダを齧りながら、微笑ましく見つめていた。
「ふふっ、リーザちゃんは相変わらず元気ね。でも、そんなに慌てなくてもご飯は逃げませんわよ? ……そういえば、さっき『借金』がどうのと言っていませんでしたか?」
ルナの問いに、リーザの動きがピタッと止まり、一気に顔が青ざめた。
「そ、そうなんですぅ……。ステージの建設費やら何やらで、ニャングルさんに莫大な請求書を突きつけられまして……。明日からポポロ村の強制労働施設行きかもしれないんですぅ」
「あらあら、それは大変」
ルナは小首を傾げ、純度100%の「善意」の笑顔を浮かべた。
「お金に困っているなら、やっぱり貴女の『腎臓』を売りましょう?」
「………………はい?」
リーザのフォークが、カランと音を立てて皿に落ちた。
「大丈夫ですわ! 貴女が臓器を売った端から、私が『世界樹の回復魔法』ですぐに新しい腎臓を再生させますもの! これを10回……いえ、100回繰り返せば、借金なんてあっという間に完済して、大富豪になれますわよ♡ さぁ、今すぐ横になってくださいな!」
ルナは満面の笑みで、光り輝くメス(魔法で生成した鋭利な葉っぱ)を取り出した。
「ひいいいいいいいっ!? や、やめてえええええ!!」
リーザはファミレスのBOX席の奥へジリジリと後退りし、悲鳴を上げた。
「コンプライアンス違反ですぅ! アカウントBANされますぅ! 痛いのは嫌ぁぁぁぁ!」
「もう! ルナ、冗談でも(本気だけど)そんなエグい提案しないでよ!」
キャルルが慌ててルナの手を叩き落とし、ファミレスでの臓器売買(無限ループ)という前代未聞の凶行を未然に防いだ。
――そして、楽しい(カオスな)女子会も終わり。
運命の『お会計』の時間がやってきた。
レジ前には、伝票を手にしたルナが、ふんわりと微笑んで立っていた。
キャルルとリーザは、その後ろで息を呑んで身構えている。
「お会計、全部で銀貨3枚と銅貨5枚になります~」
笑顔の店員に対し、ルナは優雅にうなずいた。
「ええ。ごちそうさまでした。……お会計は、これでお願いしますわ」
ルナが懐から取り出したのは、銀貨でも銅貨でもない。
世界樹の魔法でその辺の石ころから生成した、眩い光を放つ『純度100%の金貨(※ただし3日で石に戻る)』だった。
「わぁ! こ、こんな高価な金貨……! お釣りが出ませんが!?」
店員が目を丸くして慌てふためく。
「お釣りは結構ですわ。美味しいお料理への感謝ですもの♡ さぁ、受け取って……」
ルナが偽の金貨を店員の手に渡そうとした、そのコンマ一秒の刹那。
「峰打ちぃぃぃぃぃぃッ!!!」
シュバァァァンッ!!
キャルルの強烈な手刀(ウサギ族の脚力を活かした音速のチョップ)が、ルナの白く細い首筋にクリーンヒットした。
「……あら?」
ルナは一瞬だけ目をパチクリとさせた後、白目を剥いて、糸が切れた操り人形のようにその場にパタリと崩れ落ちた。
カラン……。
床に転がり落ちる、3日で消える偽金貨。
「ふぅ……。ギリギリセーフ」
キャルルは額の汗を拭い、気絶したエルフの少女を足元に転がしたまま、自分の財布から正当な銀貨を取り出した。
「ご、ごめんなさいねお姉さん! この子、ちょっと頭がアレな貴族で! お会計はこっちから払いますから!」
「は、はぁ……ありがとうございますぅ……?」
目の前で起きた突然の気絶劇に、店員は引きつった笑顔を浮かべるしかなかった。
「……えっ。ちょっと待って、キャルル」
後ろで見ていたリーザが、ガタガタと震え出した。
「お財布担当のルナちゃんが気絶したってことは……私の食べた『チーズINドデカ・ハンバーグ特盛りセット』とパフェのお金は……」
「もちろん、あんたの借金に追加しとくから。後でニャングルに報告ね(ニッコリ)」
「ぎゃああああああああああっ!!」
ルナキンの店内に、貧乏神アイドルの絶望の悲鳴がこだました。
「……チッ。またやってるぜ、あいつら」
ルナキンの勝手口の裏。
休憩時間でタバコを吸いに出ていた龍魔呂(ルナキン厨房の助っ人として時給で雇われていた)は、店の中から聞こえてくる騒ぎに呆れ果てていた。
カチッ……!
オイルライターでバレッドに火を点け、紫煙を吐き出す。
「天然の詐欺師に、借金まみれのアイドル、横領する女神に、暴力で解決するウサギか。……ウチのシマの女どもは、どいつもこいつも極道よりタチが悪いぜ」
龍魔呂は低く笑いながら、異世界の青空へ向かって煙を吹き飛ばした。
ポポロ村の経済と治安は、今日もギリギリの綱渡りで保たれている。




