表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートはいらねぇ。農高ヤンキー、拳と畑で異世界のてっぺんへ  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/59

EP 5

真紅のドレスと、震える人魚姫

ポポロ村の広場に、木材と石組みで急造されたとは思えないほど立派な特設ステージがそびえ立っていた。

「いやぁ、よく出来上がりましたな、リーザはん」

算盤を小脇に抱えたニャングルが、満足げにステージを見上げる。

その横で、ヘルメットを脱いだリーザが、泥だらけの芋ジャージの袖で額の汗を拭った。

「はい! ニャングルさん、完璧なステージです! これで私が歌えば、ポポロ村の村人たちからおひねり(小銭)がガッポリ……!」

「何をチンマイこと言うてますのや」

ニャングルがニヤリと極悪な笑みを浮かべ、算盤をチャキッと鳴らした。

「ステージは完璧や。……せやから、客はルナミス帝国、レオンハート獣人王国、アバロン魔皇国の『三カ国』から仰山と人を呼ぶ。三国合同の『特大コンサート』にしたるからな。……チケット代と物販(バレッドと酒)で荒稼ぎしまっせ! 気張ったれよ!」

「…………ふぇ?」

リーザの動きがピタリと止まった。

「え、そ、そんなに!? 人が来るんですか!? いやいやいや、三国って……帝国兵とか、獣人の騎士とか、魔族の貴族様とかですよね!?」

「良かったじゃない、リーザ! 念願の大きな人前で歌えて!」

キャルルが無邪気に手を叩いて喜ぶ。

「応援しますよ〜、リーザちゃん。ルチアナ先輩のクレカで、ペンライトを大量に仕入れておきますね!」

リリスも呑気に神界のネット通販の画面をスクロールさせている。

「え、えぇ……」

リーザの顔からサーッと血の気が引いていく。

地下アイドルとして細々と日銭(パンの耳)を稼いでいた彼女にとって、三カ国を巻き込んだ大規模コンサートなど、想像を絶するプレッシャーの塊でしかなかった。

そして、コンサート当日。

夜のポポロ村は、異様な熱気に包まれていた。

ニャングルの商魂と情報網によって集められた三国の兵士や要人たちが、ステージの前にすし詰め状態で陣取っている。彼らの手にはポポロ村特産の『酒』と『ピイカラ』、そして口には『バレッド』が咥えられており、開演前からすでにボルテージは最高潮に達していた。

その熱狂とは裏腹に。

ステージ裏の簡素な楽屋テントの中は、凍りつくような緊張感に包まれていた。

「ど、どうしよう……」

鏡の前に座るリーザは、いつもの色あせた芋ジャージではなく、キャルルが仕立ててくれた『真紅のドレス』に身を包んでいた。

海色の髪は美しく結い上げられ、プロのアイドルのような完璧なメイクが施されている。その姿は、紛れもなく海中国家シーランが誇る絶世の「人魚姫」そのものだった。

しかし、その両手はガタガタと情けなく震え、瞳には涙が浮かんでいる。

「私……私、ルナミスの路上で、みかん箱の上でしか歌ったことないのに……! こんな、何千人もいる前で歌うなんて……無理ですぅ! 暴動が起きたら、私、真っ先に串刺しにされちゃいますぅ……!」

恐怖とプレッシャーに押し潰されそうになり、リーザがドレスの裾を強く握りしめた、その時。

テントの入り口の布がバサリと捲り上げられ、190cmの巨躯が姿を現した。

いつもと変わらない黒の学生服姿。口には煙草を咥えている。

「……龍魔呂、さん」

龍魔呂は無言のまま、震えるリーザの前まで歩み寄った。

「わ、私……怖い! 私、怖いよぉ……! ここから逃げ出したいですぅ……!」

堪えきれず、リーザは両手で顔を覆い、子供のように弱音を吐き出した。

地下アイドルとして虚勢を張っていた彼女の、本当の脆い部分。

龍魔呂は、咥えていた『バレッド』を携帯灰皿に落とし、太く大きな手を、リーザの華奢な肩にドンッと乗せた。

「……リーザ」

低く、腹の底に響くような凄みのある声。

「お前、この前、俺の弁当を食いながら言った事はどうした?」

「え……?」

リーザが涙で潤んだ目を上げる。

「お前の歌で、ファン達の『時間』も『悩み』も、すべてを奪い去って、宇宙一の幸せを味わわせるんだろ?」

龍魔呂の鋭い瞳が、逃げ腰になっていたリーザの瞳を真っ直ぐに射抜いた。

「俺に言ったはずだぜ。……お前の歌で、俺のハートを撃ち抜くってな。それともあれは、ただの腹減りのハッタリだったのか?」

「…………っ!」

ヤンキー特有の、不器用だが真っ直ぐな挑発。

それは、恐怖で縮こまっていたリーザの心の中に眠る『アイドルの意地』に、直接火を点ける言葉だった。

「……龍魔呂さん」

リーザの震えが、ピタリと止まった。

彼女は両手で顔をパンッと叩き、涙を拭った。

「ハッタリなんかじゃありません! 私は……私は、絶対無敵のスパチャアイドルですぅ!」

真紅のドレスを翻し、リーザは力強く立ち上がった。

その顔にはもう、みかん箱で怯える少女の面影はない。舞台に立つ者としての、狂気にも似た覚悟が決まっていた。

「上等だ。……行ってこい。俺のシマ(村)のど真ん中で、一番でけぇ喧嘩ライブをしてこい」

龍魔呂がニヤリと笑って背中を叩くと、リーザは完璧なウインクを返した。

「はいっ! 特等席で見ていてくださいね、私のパトロン様♡」

外から、開演を待ちわびる三カ国の大歓声と地鳴りが響いてくる。

深海の人魚姫が、ついにポポロ村の巨大なステージへとその足を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ