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チートはいらねぇ。農高ヤンキー、拳と畑で異世界のてっぺんへ  作者: 月神世一


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第一章 農業ヤンキーの龍儀

退学上等。俺の龍儀と、コタツ部屋の駄女神

重苦しい沈黙が支配する職員室。

パイプ椅子が、ぎしりと悲鳴を上げていた。

座っている男が、大きすぎるのだ。

鬼神龍魔呂きしん たつまろ、十八歳。

都内の農業高校三年。

そして夜の東京では、『鬼龍爆速愚連隊』の総長として知られる男だった。

「あのねぇ……鬼神君。その、なんだね」

教頭が、ハンカチで額の汗を拭いながら引きつった声を出した。

「君の素行は、我が校にふさわしくないんだよ。いくら我が校の女子生徒が、他校の不良にカツアゲされていたのを助けたからといって……相手の骨を折るほどの暴力はね……」

「…………そうすか。胸糞悪い悪党が、許せねーだけだったんすけどね」

龍魔呂は短く吐き捨てた。

彼の『鬼の龍儀』――カタギには手を出さない。女は守る。悪は根絶やしにする。

その絶対のルールに従い、怯える女子生徒から金を巻き上げようとした半グレ紛いの不良共を、鉄板入り鞄と拳で文字通り「粉砕」しただけのこと。

だが、事勿れ主義の学校側にとって、そんな事情はどうでもよかった。

「自主的にね……。私どもから言われなくても、君なら『分かる』よね?」

教頭の回りくどい退学勧告。

龍魔呂は静かに立ち上がった。

ただ、それだけだった。

しかし長い脚がパイプ机の脚に軽く触れた瞬間、

ガンッッ!!

机が床を滑り、教頭の湯呑みが跳ねた。

「ひいいいっ!?」

「……すんません。力加減、間違えました」

「鬼神 龍魔呂。3年間、土の匂いには世話になりましたわ」

それだけ言い残し、龍魔呂は振り返ることなく職員室を出た。

廊下に出ると、壁の影から一人の女子生徒が飛び出してきた。

カツアゲから救ってやった、同じ園芸科の女子だ。彼女の目には大粒の涙が浮かんでいる。

「あ、あの! 龍魔呂君! わ、私っ……先生にかけ合うから! こんな理不尽な事、絶対に許せないもん! 龍魔呂君は私の為に、不良達をやっつけてくれたのに……!」

必死に食い下がる彼女の頭に、龍魔呂はポンと大きな掌を乗せた。

「ばーか。気にすんな」

「え……?」

「俺は、俺の『龍儀』にそったまでだ。お前はちゃんと、育ててるトマトに水やってろよ」

泣き崩れる女子生徒を背に、龍魔呂は校舎の出口へと向かう。

(さて、知り合いのバイク屋にでも行くかな……。預けてるパンアメリカでも転がして、風でも浴びるか)

愛用の真鍮製オイルライターを取り出し、親指でフタを弾こうとした――その瞬間だった。

カチッ!

火はつかなかった。

代わりに、青白い魔法陣がライターの火口に咲いた。

校舎の床が消え、見慣れた下駄箱の景色が、まるでテレビのチャンネルを切り替えたように一瞬で「和室」へと変貌したのだ。

「……あ? ここは何処だ?」

「え? あ?な、何あんた!?」

龍魔呂の目の前には、場違い極まりない空間が広がっていた。

畳、みかんの乗ったコタツ、脱ぎ捨てられた健康サンダル。そして、ピンク色の芋ジャージを着て、片手に缶ビールを持ったオバサンが、目を丸くしてこちらを見上げている。

テレビの画面では、地球のイケメンアイドル『朝倉月人』がキラキラと歌って踊っていた。

「おいオバサン、誰だアンタ。ここはどこだ?」

「オ・バ・サ・ンじゃないわよ! 永遠の17歳、女神ルチアナよ! っていうか……」

自称・女神ルチアナは、慌ててビールの空き缶を隠し、テレビのリモコンをガチャガチャと操作した。

「ちょ、ちょっと待って! 誤作動!? 私、月人君の番組の録画ボタンを押しただけだったのに……異世界召喚の強制スイッチ押しちゃったじゃない! あーもう、委員長ヴァルキュリアに怒られるぅ……!」

ブツブツと文句を言いながら、ルチアナはコタツの上の散らかった書類の山から、一枚のカンペを引っ張り出した。そして、コホンと咳払いをして、無理やり威厳のある声を取り繕う。

「えぇっと……これも何かの縁だから、、コホンッ!よくぞ参りました、迷える魂よ。貴方は先ほど、トラックに轢かれそうになった『猫』を助けて、亡くなりました。その尊い善行に感動しました。よって、アナステシア世界に転生する機会を与えましょう」

「…………はぁ?」

龍魔呂は眉間を深く寄せた。

「猫? トラック? 亡くなった? ……オバサン、酒の飲みすぎでボケてんのか? 俺はさっきまで高校の廊下にいたし、かすり傷一つねぇぞ」

「きいいいいいっ! 仕方ないのよ! こういうのは『テンプレ』が大事なの! いいから死んだことにしておきなさい!」

逆ギレしながら机を叩くジャージ姿の女神。

あまりにもくだらないやり取りに、龍魔呂は呆れて溜息をついた。ポケットから角砂糖を取り出し、ボリボリと無作法に噛み砕く。甘さが脳に回り、現状をあっさりと受け入れさせた。

「……まぁ良いや。最近の日本は、どいつもこいつも小粒で退屈してたところだ」

龍魔呂は首の骨をボキボキと鳴らし、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「剣と魔法の世界、だったか? 上等だ。俺の拳と龍儀で、その世界の『てっぺん』を獲ってやるぜ」

農高ヤンキーの規格外な異世界生活は、このしょうもないコタツ部屋から幕を開けた。

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