~2・メッセージ~
笑ってほしい。
誰にも相談できないまま、学校と家の往復が続いたある日。
友達からこんな話を聞いた。
「この間ね、お母さんの誕生日でさ。
何が欲しいって聞いたら、お手伝いしてくれたらお母さんはとても嬉しいわって言われて、手伝ったの。
だから、お手伝いしたんだ。
そしたらね、すっごく喜んでくれたんだよぉ」
私は、思わず『これだ!』と叫びたくなった。
疲れて帰宅した母に美味しい料理を作ってあげよう。
朝は、母よりも早く起きてトーストを焼いてあげよう。
その日から、私は必死に頑張った。
母より先に起きること。
それが、どれほど大変なことかを考えずに、とにかくいつもより一時間早く起きるように目覚ましをセットした。
しかし、その時間には母の姿は家にはなかったのだ。
それでも、その一時間で台所の食器を片づけた。
洗濯物も干した。
何をどうやったらいいのかなんて分からなかったが、
とにかくいつも母がやっていることを真似してみたのだ。
学校から帰った私は、朝同様にいろいろと挑戦した。
料理なんてやったことがなかったし、父が居なくなってからというもの、料理らしい料理を食べてこなかったのだから、料理をするということすら分からない。
それでも、水加減というものがあることすら分からないままご飯を炊いてみた。
全てが失敗に終わっても、以前の母なら
『失敗は成功の母だものね』
そう言って褒めてくれたのだ。
きっと、今回も失敗したことよりも頑張ったことを褒めて、やり方を教えてくれるはずだ。
しかし、帰宅した母は不機嫌に全てをゴミ箱へ捨て、
「もったいないことをするな!」
と怒鳴ったのだった。
涙が頬を伝った――
わかって欲しかった。
いや、きっとわかってくれてるはずだ。
だから学校の先生に、ご飯の炊き方を聞いたし、簡単な料理の仕方も教えてもらった。
今度こそ、母に笑顔になって欲しくて、できる限りのことをしたのだ。
その甲斐あって、料理はそれなりに形になりつつあった。
家のこともだいぶできるようになった。
けれど母は笑わなかった。
それどころか、帰宅した母は私の作ったものに箸をつけようともせず、
ただ缶ビールを空にしては倒していった。
その本数は、日ごとに増えて行った。
涙こそ流してはいなかったが、その目はどこを見ているのか分からなかった。
ぼんやりと流れるテレビの映像に視線を向けていながら、決してその画像に食い入ることはなかった。
ある時、学校からの手紙を母に差し出した。
母は奪うように手紙をむしり取ると、吐き捨てるようにこう言ったのだ。
「日曜参観? ふざけないでよ!
お母さんが休みなく働いているのに、あんたは平気でこんなものを見せて
お母さんにどうしろっていうのよ!
これ以上、私にどうしろっていうのよ!」
そう言うと、気が狂ったように泣きだしたのだ。
怖くて、哀しくて……。
私は自分の部屋に入ると布団にもぐって震えながら泣いたのだった。
オカアサンガ、コワレル……




