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僕の灰色歴史 1  作者: 六嶋 汐
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背に腹は変えさせない


二話目!!

主人公にとってはすさまじい戦いが繰り広げられる幕上げです!

少し残酷な描写あり。


1『一時帰還は学校で』

 

あまり堂々としない、かっこ悪い宣言をしてみたものの、実際、何をどうすればいいのだろう。

乾いた血が張り付く腹部をはらいながら考えてみる。手が汚れただけだった。

 なぜか僕の心を読んでくる少女は、呆れた表情のまま語る。

「すぐに生き返れるとは思わないことね。ゲームの体験版みたいなものだと思いなさい。だけど、本気でプレイしないといつまでたっても体験版だから」

「そんなに……?」

「人生はお金で買えないのよ。勉強になったわね」

小さいくせにやけに大人びたこいつは……こいつ、えーと、

「すまん、名前は?」

「名前を訪ねるときは……」「まず自分からですね、わかったよ」

頭をかき、ああーと間を置いてから、名を名乗る。

「……桑原、っス」「名前も」「…………」

言い迷っていると、少女はなぜか鼻で笑った。

「なぁに? 自分名前は無いです設定ですか。これは助かる見込みないわね」

いやだから、そういう中二病を治すために僕は努力してるんだろ。

「ちげーよ。その、なんだ……あーもういいや。果南だよ」

少女フリーズ。想像通りだよちくしょー。

 数回頬をぴくぴくとひきつらせながら、僕を震える指で示す。こいつ、さっきまでの、余裕を多量に含んだ湿った笑顔を浮かべることすら忘れている。

 指先に突っ立ている僕を、瞬きを何度も繰り返して確認すると、やっと軽く小さい口を開いた。

「………………は、え? カナ!? それって女の子の名前じゃ」

そこまで言うと少女は腹を押さえてうずくまり、震えはじめた。

つまり、笑っている。頑張って笑いをかみ殺している。

 昔から、女みたいな名前だとからかわれてきたから、名前はあまり好きじゃなかった。

これで、漢字が『香菜』とかだったら、死ぬぜ。超らぶりーじゃねえか。親の愛滲みすぎ。

「……っ、ふっ…………、……、……っ」

「いつまで笑ってんだよ」

「……ぁあごめ……ぶふっ」

僕の顔を見ると再び腹筋の運動に忙しくなる少女。あーもう少女とかこいつとかうぜーから、早く教えろ名前。

「んで、名前は?」

「いや、私そういうの無いから、好きに呼んでいいわ」

「はぁ?」

お前、僕のネーミングセンスを舐めているようだな。小学生のころ、金魚のために徹夜して考えた名前候補すべてにボツをくらった過去をもつこの僕を。

 でも頑張ってみよう。

「これなんかどうだ? 『コンセント・タクサーン』」

「身もふたもない名ね」

うぐぬぅ。

「なら『コンセント・ササレール』」

「だから、ごめんて言ったじゃない」

「……『コンセント……」

「いい加減コンセントから、離れたら?」

だあああああ!!

「僕こーいうのわっかんねえよ!!」

「あーもういいわよ。期待して悪かったわね。ここは無難に『コンセント』にしておきましょう」

「えーでも長くて言いづらい」「いやあなたの候補のほうが十分長いからね?」

という時間を効率よく無駄にする話し合いの結果、『コン』に決まった。

 さて、そして僕は、呼吸する己と呼吸のもとになる酸素を取り戻さなくてはいけない。

「あなたが、人として今よりましになれば、帰れるかもしれない。つまり、人間を磨けばいい」

いや、さらっと言われてもなぁ。そのやり方がわからないから苦労して、今もこうして自殺練習が本番になっちゃたわけで。

「具体的には……?」

「私のこのコンセントは現実世界の記録をコピーすること、またそこに何かを送ることができるの。さっきあなたに刺したこのコンセント、覚えてるわよね?」

コンが赤黒にコーティングされたコンセントを掲げる。むしろ忘れねえよ。

「刺したことによって、あなたの人生の生活をここにコピーしたの。また刺すことで、あなたを再び過去に戻してあげることができる」

え、また刺されるの?

 冷や汗を浮かべる僕にはお構いなしに、コンは続ける。

「でも、一時的によ。だから、短い時間であなたによりよい人間性を養ってもらうために、このたび私はあるプランをたてました」

急に真面目くさくなったなぁ。視線を落としながら、髪の毛をいじる。コンがコンセントをうねらせながら睨んで来たので瞬時にやめた。

「私の出すミッションを時間内にクリアすること! ね? ゲームみたいでわくわくするでしょ?」

私の出すってところがわくわくっていうかびくびくするな。こいつは完全なるSだ。短期間で確信した。

 だが、こうして僕が生き返るために協力してくれているのは事実。わがままは言えない。

 ふと、母親に昔言われていた言葉を思い出す。『わがままはダメよ』だったか。

 だけど、いったいわがままってなんだ。十分満たされている上に、何かを求めようとするのがわがままなのだろうか。だとしたら、科学者はどうなるんだ。

 もしくは、他人に対しての影響をほぼ思考に入れず、自分の考えのみを押し通そうと躍起になることを意味するのだろうか。しかし、それが避難されては、物事がうまく進まないのではないか。ときには犠牲が伴うように、人はみな平等なわけがない。だから、みんな必死に自分を高見に置こうとする。平等じゃないとわかっているからこそ、なるべく上の存在を求める。人のことなんか知らない。あたりまえだ。それが、わがままだというのなら。

わがままは、僕だけじゃない。

「あんまきついのは避けてくれよ」

安心感を手に入れたので、さっそくわがままを言ってみる。

「大丈夫よ。人並にできれば問題ないミッションばかりだから」

その言葉にさらに安心感を増加させられ、並々と上ったそれは『調子に乗る』という行動へと化学変化を起こした。

「ならよー、早く済ましたいんだけど」

今の僕なら余裕だぜ。

 今まで、不幸な目にあったことはそんなになかったから、これ以上不幸にはならないだろうし、きっと。

 しかも、一度果てた体を取り戻せるのに、どんな代償も多分重くない。

 人生に大切なものを作らなければ、死ぬのだって悲しくない、そう考えて、僕は今まで生活してきたんだ。

しかし、それの正体が中二病ということもあり、僕は自分とそれに集まる注目、人々の目のみを異様に愛しすぎた。大切なものを作ってしまったわけだ。

 これがなければ、きっとどんなものすら金にかえてもいいというほどの最低人間に育っていただろう。

最低なのは変わらないか。はっはー!

 だから、取り戻すものに勝る大切なものを、僕は持ち合わせていないから、必然的に、価値観でいえば僕の勝ちだ。ふふ、ずいぶんとお得だ。

 さぁ、どんなカスい代償が待っているのかな?

「クラスの人10人に挨拶。授業中、問題に10問答える。きらっきらの運動部に所属する」

「え」

にぃまぁと粘土のような笑みを浮かべてコンが言い放つ。

「この3つをクリアすることが、最初のミッションよ」

「お、おまっ……」

計ったな! と言いたいところだけど、多分コンは別に計ってない。

 『よりよい人間』ってところで気付いておくべきだった。

 僕という大切なものを取り戻すための代償は、僕という大切なもの自体を変えることだって。

 こんなの、損も得もあるか!

 それにしてもそのミッション、確かに人並なら出来なくはない技だ……。しかし、僕はそれに置いては人並っつーか動物と等しいくらいの経験値しか与えられていないのだよ。薄っぺらいプライドはあるのにねー!!

「はい、じゃあ、二年生になりたてのころから、スタートさせるわよ」

コンがそう言うのと同時に、さっき僕の腹に入っていた(ていうか突き抜けていた)コンセントがぬめりと赤を目立たせながら照る。

 まるで生き物みたいにうねる、重力に完全に逆らったそれは、少し動くたび、ついさっき縫い付けられた僕のトラウマをこじ開けてくる。

 僕はあわてる。コンをなだめて現実逃避に走るために、手を前に出して振るか、腹に刺さるのを防御するために、手という装備をへそ付近に取り付けるか迷う。

「ちょ、タンマ!」

最初のほうを選択。

「うるさいわねぇ、ガキが。さっさと覚悟決めたらどうなの」

コンになだまる様子を確認できなかったので、涙目になりながら腹部を押さえる。

 ほんと、あれまじで痛かったんだよぉ。

 実に楽しそうに目を細めるコン。

「そんな軽装備で、阻止できるとでも?」 

いや全く思ってないですけど、気休め?

 コンは口を三日月形に開いてコンセントの動きを加速させた。

 そして、躊躇なくコンセントは僕の腹を貫く。

 手で押さえていたため、左手の甲には空洞が出来上がり、その下にあった手首は肉が半分くらい削げた。

 中で骨が砕ける音を聞き、耳をふさぎたくなったけど、砕けている本体そのものが手ではどうしようもなかった。

 腰付近でコンセントが貫通する前、背骨にごつりとかすったのが分かった。

ぶちっという効果音と共に背中から再び生えたそれは、新しい血液によって本当の色を失う。

背中とお腹をつないでもまだ足りないのか、コンは貫通したことで行き来しやすくなったコードをずるずると僕の腹に押し込んだ。

「ぁぎぁあがぐぃぁっ………………」

後のほうは声にならない。  

 役目を果たさなかった両腕にとろみのある液体が伝っていく。手の隙間に生ぬるい赤が染み渡るのが気持ち悪かった。

 薄目を開けて、少し気に余裕ができたと思うと、次は生々しい血液の匂いが口の中まで押し寄せた。鼻の穴に血を流しこまれたような感覚で、全身が噎せ狂う。

 というか、実際鼻血が出ていた。胃の中にまで流れ込んだ血が逆流したのだろうか。お、口にも金属くさい液体が。

 どんどんたまって、血液で溺れるのではないかという不安に駆られたので、口内の鉄分を外に出そうと試みる。

 漫画みたいに力強く『がはっ』って吐けたらよかったけど、お腹に力が入らなくて、口から押し出されて溢れただけになってしまった。唾も混じった赤黒が、僕の顎まで伝って服を汚した。今更だけど。

「行ってらっしゃい」

コンの声がさっきよりずっと遠くで聞こえた気がした。

 あれ? 何も見えなくなった。

 足元にあったはずのものが全て消えた。光が消える。重力が消える。感覚が消える。

 そして最後に、僕が消えた。



次はとうとう本格的に物語に入っていきます!

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