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アクシアエンネア  作者: 瀬。
海底撈月
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03

 願いを叶える店『アクシア』

 うちの店で願ったことは、なんでも叶う。正確には、お客さんの願いを叶えるために私達が働く。結果として、願いが叶っているというわけだ。

 とはいえ、場所はオンボロ廃工場のオンボロ倉庫。

 入ってみれば希少なランカーの寄せ集まり。

 その上、割高勘定。

 いかなる手段を用いても叶えるなんて謳っている店が真っ当なわけがない。

 中学生――いや、まだ当時小学生くらいの子供すら従業員として引き入れる店が真っ白なわけがない。

 だから私も友達にこんな場所でバイトをしているなんて表立って言えないし、はたして中学生が働くことが許されている国かといえば――でもそんなことを言ってしまえば実家が商いを営む家系ならお手伝いしている小さな子は罰せられることになるんじゃない?なんて、でもだけど論争が勃発してしまいそうなものよね。

 この世の事象全てには、対価というものが存在する。

 これは昔、うちの店主が一桁の年頃だった私に教えた言葉なのだけれど、いや急に話を戻したけれど、昔も今もその通りだと思っている。

 お店で何かを欲しいと思ったらお金を払わないといけないし、払うためのお金を手に入れるには労働力、或いはそれに相応しい時間を提供しなければならない。何かを手に入れるために、何かを手放す。それはこの世の法則で、真理だ。

 例に漏れず、私達のお店もギブアンドテイクで出来ている。私達はお客さんの願いを叶えるために労働力を差し出し、お客さんは望みを叶えるために対価を差し出す。


「あなた方の望む品はわかりました。それでは、等価交換といきましょう」

「代金は三百万でいかがだろうか」


 事も無げに提示された金額は、ただの中学生にはあまり具体的な想像ができない金額だった。おいそれと手に入らない金額であることだけは、なんとなく理解できる。ここ最近うちに来た依頼の中でも、明らかに高額な部類だ。


「それでは等価とは言えないね」


 ぼそ、と呟く狐の声が、恐らく猫と兎の耳にだけ入った。

 それってつまり安いってことなの?高いってことなの?なんて考える私を置いて、テーブルをはさんだ交渉の会話は進展する。


「あなた方が望んでいるものは、その使用方法次第で、競合相手の会社が傾くくらいの品になるでしょう?それに、私達がそれを手に入れるまでに捕まるリスクと命の危険も天秤にかけていただけてる?ましてやそれを三日後までに?」

「では、……七百万でどうだ」

「そもそも、桁がひとつ違うのでは?」

「……では、一千万、一千万だ!これ以上は私の一存では動かしかねる」

「いいでしょう。それでは三日後、成功報酬の一千万とあなたの望みを交換しましょう」


 主に依頼人の男が迷いながら、トントン拍子に話がまとまっていく。

 うちに来るお客さんは大抵こうなる。それほどまでに何かを願っているから、何かを支払うということへのハードルが低い。大体は今回のように金銭での取引をするけれど、そうでない場合すらあまり迷うことなく客は何かを対価に差し出す。

 知っている人は知っているように。

 この人も、きっと知っているんだろう。

 この何でもしてくれるお店は、ランカーの集まりで、願えば無茶な願いも叶えてきたお店なんだと。

 高額を支払えば、求めているものを手に入れることができるのだと。

 話がまとまるや否や、書類を交えた手続きを終えて――そのあたりは緋那と李心さんが手伝いながら――私は最後まで狐の後ろで立ったまま、取引の一部始終を見ていた。ただ、見物していた。

 悔しいことに私が一番年下で、彼らは私よりも年上だ。狐や緋那はそう変わらないんじゃないの?なんて思うときもあるけれど、それでも年上というならそうなんだろう。そうなると必然、私はこういう少し堅い話し合いの場では見ていることが多い。私の仕事は、交渉が終わったテーブルの上のお茶を片付けて、新しく四人分のお茶を淹れることだけ。

 李心さんは見送り係で、書類の不備チェックは緋那、大まかな仕事の段取りを組み立てるのは狐の仕事だ。

 何はともあれ、である。

 私達は大きな仕事を手に入れた。

 結局、依頼人の横でだんまり座っていた女の子が何だったのかは何一つわからずじまいなままだったけれど。


「美月、今日打ち合わせ、大丈夫?」

「いいけど……あんまり遅くなりたくないわ。お母さん、心配させたくないから」

「大丈夫、緋那が送るから」


 いや、そういうことじゃないのよね。

 帰り道の心配はしてないのよべつに。

 ていうか送ってくれなくって結構。

 唇を指で撫でる仕草は、考えているときの狐の癖だ。立案中の彼女に反論するのも思考の邪魔になってしまいそうなので、八時までには家にいたいわ、とだけ告げて、四人分のお茶をお盆に乗せた。丁度、戻ってきた李心さんがそれを私から奪う。「手伝うよ」と微笑んでくれる優しさもいつもの流れ。

 先程のテーブルとは違う、仕切りをはさんだ奥――緋那の部屋手前にあるテーブルにお茶が並んで、それぞれの定位置の椅子に腰かける。緋那が狐の隣の席をとるのも、いつもの流れだ。私は大体、李心さんの隣。

 時計の短針はもうじき真下に差し掛かる。

 八時前に家に着くには、大体あと一時間くらいでここを出ればいいかな、なんて悠長なことを考える。

 いつも通りの、打ち合わせという名の作戦立案会を始める狐の声を聞きながら。

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