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凡骨の冰姫  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二章 第二の師・武芸王アラン邂逅編

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第二十五話 必倒技

 そのステップをロゼロは生まれて初めて見た。


(遊んでいる――わけじゃない。きっと何らかの技の初動だ。不気味……見たことのないステップ。しっかりと見切らないとな)


 両腕はまだ痙攣(けいれん)している。鎖を飛ばして相手の技を邪魔することはできるが、確実に腕のダメージを悪化させる。

 相手の技の実態が読めない、さらに腕は痛んでいる。ロゼロは“(けん)”を選択した。それが最悪な選択肢だと知らずに。


「なん、だ……?」


 ロゼロの視界で、レノの動きがブレ始めた。

 レノの姿が水面に映る人影のように揺らぎ、そして二体、三体と分身する。


(しまった! これは視惑法(しわくほう)(たぐい)!!)


 視惑法とは独特な動きで相手の脳を混乱させる技のこと。

 気づくのが一瞬遅かった。ロゼロがレノから視線を外す前に、ロゼロの視界が暗転した。


「“乱歩”!!」



 ---



(成功です!)


 ロゼロが眩暈でふらつく。その隙に、レノは全力の“火声”で体に鞭を打ち、急速に接近する。


(ダメだ。距離が離れすぎてる!!)


 距離7メートル。ロゼロが眩暈で復活する前に、ロゼロの背後に回ることは不可能。


(ならば!!)


 レノは呼吸法を変える。


(“風声”! “霊歩”!)


 レノはロゼロの正面からロゼロの死角、瓦礫の山に隠れる。


「っ!!」


 眩暈から復活したロゼロ。慌ててレノを探すが、その姿は見当たらない。


「気配がない。逃げ――いや」


 レノはロゼロが自分のいない方向、右を向いた隙に、瓦礫から瓦礫に移動。物陰を静かに移動し、ロゼロの真後ろに回った。


(潜入作戦の経験が活きました!)


 レノは右掌底をロゼロの後頭部に向ける。


――『人の頭は正面からの衝撃に強く、後ろからの衝撃に弱いようにできている』


 レノは思い出す、セトが修行中に言っていた言葉を。


――『この技は後頭部と首との境目、気の入り口と言われる脳戸(のうこ)を掌底で打ち、脳に衝撃を通して気を絶つ技』


 レノは右腕を軽く曲げている。その曲げた右腕の肘に、左手を添えている。


(角度良し! 態勢良し! 気合良し! ターゲット悩戸! ――“火声”発動!!)


 全身を呼吸で振動させ、発生した運動エネルギーを掌底に溜める――!


『一撃必倒!!』

「“後天発勁(こうてんはっけい)”!!!」


 レノは左手で右腕の肘を押し、右腕を伸ばしてロゼロの後頭部――悩戸に掌底をぶつける。


「かはっ!?」


 ゴォン! と衝撃で空気が唸る。


 ロゼロは正面に吹っ飛び、うつ伏せになって倒れる。

 レノも技の衝撃で吹っ飛び、背中から地面に倒れ込んだ。


 “乱歩”→“火声”→“後天発勁”。初見殺しの必倒コンボが炸裂した。


「ロゼロは!?」


 レノは慌てて上半身を起こし、ロゼロの方を見る。


「……」


 ロゼロは、立ち上がっていた。


「そんな……! アレをくらって意識を保てるなんて!!」

「血の跡で、お前が後ろに回っていたことにギリギリ気づけた。おかげで、微かにヒットポイントをずらせたのさ。良い技だったが……一歩足りなかった、ってわけだ!」


 ロゼロは両裾から鎖を飛び出させる。


「死にな! “鳥牙”!!」


 高速で放たれた鎖の突きは――あらぬ方向へ飛んでいった。


「「!?」」


 鎖はレノから遠く放たれた壁に突き刺さる。


「な――に? ぐっ!?」


 ロゼロは眼球をぐるりと回し、膝をつく。


『クリーンヒットしなかったとはいえ、発勁を後頭部に受けて無事なはずがないでしょう』

『発勁……全身を駆動させ、発生させた運動エネルギーの塊、(けい)を狙った部位に余すことなく伝える古代体術。私に肉体があれば、是非とも習いたい技だ……』


 ロゼロは立ち上がるも、足元が定まらない。戦えるコンディションじゃない。

 それはレノも同じ。レノも立ち上がるが、一歩も動けない状態だ。


 その時、階段をあがってくる音が二人の耳に飛び込んだ。ロゼロは戦況を悟ると肩の力を抜き、戦闘態勢を解いた。


「お前、名前は?」

「レノ、グリーンハートです」

「覚えたぞ、グリーンハート。今回は引き分けにしといてやる。次は必ず、仕留める」


 ロゼロは飛び上がり、崩れた天井から六階に上がった。


「待て! あなたを逃がすわけには……!!」


 レノはロゼロを追おうと踏み込むが、


「つうっ!?」


 全身の痛みで膝を崩す。


「おい、大丈夫か!!」


 部屋にディルが入ってくる。

 ディルは倒れたキール、フィン、そして膝をつくレノを順に見える。


「ディルさん……キールさんとフィンさんをお願いします……」

「レノ!!?」


 レノはディルに後を任せ、気を失った。

【読者の皆様へ】


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