第二十五話 必倒技
そのステップをロゼロは生まれて初めて見た。
(遊んでいる――わけじゃない。きっと何らかの技の初動だ。不気味……見たことのないステップ。しっかりと見切らないとな)
両腕はまだ痙攣している。鎖を飛ばして相手の技を邪魔することはできるが、確実に腕のダメージを悪化させる。
相手の技の実態が読めない、さらに腕は痛んでいる。ロゼロは“見”を選択した。それが最悪な選択肢だと知らずに。
「なん、だ……?」
ロゼロの視界で、レノの動きがブレ始めた。
レノの姿が水面に映る人影のように揺らぎ、そして二体、三体と分身する。
(しまった! これは視惑法の類!!)
視惑法とは独特な動きで相手の脳を混乱させる技のこと。
気づくのが一瞬遅かった。ロゼロがレノから視線を外す前に、ロゼロの視界が暗転した。
「“乱歩”!!」
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(成功です!)
ロゼロが眩暈でふらつく。その隙に、レノは全力の“火声”で体に鞭を打ち、急速に接近する。
(ダメだ。距離が離れすぎてる!!)
距離7メートル。ロゼロが眩暈で復活する前に、ロゼロの背後に回ることは不可能。
(ならば!!)
レノは呼吸法を変える。
(“風声”! “霊歩”!)
レノはロゼロの正面からロゼロの死角、瓦礫の山に隠れる。
「っ!!」
眩暈から復活したロゼロ。慌ててレノを探すが、その姿は見当たらない。
「気配がない。逃げ――いや」
レノはロゼロが自分のいない方向、右を向いた隙に、瓦礫から瓦礫に移動。物陰を静かに移動し、ロゼロの真後ろに回った。
(潜入作戦の経験が活きました!)
レノは右掌底をロゼロの後頭部に向ける。
――『人の頭は正面からの衝撃に強く、後ろからの衝撃に弱いようにできている』
レノは思い出す、セトが修行中に言っていた言葉を。
――『この技は後頭部と首との境目、気の入り口と言われる脳戸を掌底で打ち、脳に衝撃を通して気を絶つ技』
レノは右腕を軽く曲げている。その曲げた右腕の肘に、左手を添えている。
(角度良し! 態勢良し! 気合良し! ターゲット悩戸! ――“火声”発動!!)
全身を呼吸で振動させ、発生した運動エネルギーを掌底に溜める――!
『一撃必倒!!』
「“後天発勁”!!!」
レノは左手で右腕の肘を押し、右腕を伸ばしてロゼロの後頭部――悩戸に掌底をぶつける。
「かはっ!?」
ゴォン! と衝撃で空気が唸る。
ロゼロは正面に吹っ飛び、うつ伏せになって倒れる。
レノも技の衝撃で吹っ飛び、背中から地面に倒れ込んだ。
“乱歩”→“火声”→“後天発勁”。初見殺しの必倒コンボが炸裂した。
「ロゼロは!?」
レノは慌てて上半身を起こし、ロゼロの方を見る。
「……」
ロゼロは、立ち上がっていた。
「そんな……! アレをくらって意識を保てるなんて!!」
「血の跡で、お前が後ろに回っていたことにギリギリ気づけた。おかげで、微かにヒットポイントをずらせたのさ。良い技だったが……一歩足りなかった、ってわけだ!」
ロゼロは両裾から鎖を飛び出させる。
「死にな! “鳥牙”!!」
高速で放たれた鎖の突きは――あらぬ方向へ飛んでいった。
「「!?」」
鎖はレノから遠く放たれた壁に突き刺さる。
「な――に? ぐっ!?」
ロゼロは眼球をぐるりと回し、膝をつく。
『クリーンヒットしなかったとはいえ、発勁を後頭部に受けて無事なはずがないでしょう』
『発勁……全身を駆動させ、発生させた運動エネルギーの塊、勁を狙った部位に余すことなく伝える古代体術。私に肉体があれば、是非とも習いたい技だ……』
ロゼロは立ち上がるも、足元が定まらない。戦えるコンディションじゃない。
それはレノも同じ。レノも立ち上がるが、一歩も動けない状態だ。
その時、階段をあがってくる音が二人の耳に飛び込んだ。ロゼロは戦況を悟ると肩の力を抜き、戦闘態勢を解いた。
「お前、名前は?」
「レノ、グリーンハートです」
「覚えたぞ、グリーンハート。今回は引き分けにしといてやる。次は必ず、仕留める」
ロゼロは飛び上がり、崩れた天井から六階に上がった。
「待て! あなたを逃がすわけには……!!」
レノはロゼロを追おうと踏み込むが、
「つうっ!?」
全身の痛みで膝を崩す。
「おい、大丈夫か!!」
部屋にディルが入ってくる。
ディルは倒れたキール、フィン、そして膝をつくレノを順に見える。
「ディルさん……キールさんとフィンさんをお願いします……」
「レノ!!?」
レノはディルに後を任せ、気を失った。
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