俺と桜花③
たまに気が利かない、空気の読めない奴だと言われるが、別に俺は鈍感系ではない。空気を読まない事は確かだが、空気を読めない訳では無いのだ。
つまり、空気を無視する自己中と言う事である。
俺の自虐は横に置き、桜花の発言について考える。
これはつまり、俺が毎日MPを供給するのを負担に思っていたと考えて気落ちしてしまったのだろうか?
もしくは毎日のMP供給を俺との絆のように感じていたか。
とにかく、桜花にとって『ホムンクルス・レンディア』を勧めたのは失敗だったようだ。
こういう所は桜花も女の子だったと思わされる。
女の子というのは面倒な生き物で、自分の中で答えが出ている選択肢をわざと聞いてきたりするのだ。服や小物を買うとき「どっちがいい?」と聞いてきた場合、相手が本当にやっているのは「聞いた相手は自分の事を理解しているのか」試しているだけなのである。
きっと桜花は『ホムンクルス・プラーネ』を選んでほしかったという訳だ。
「やっぱり、レンディアの方が能力的に安定するからね。何戦も、何日もかけてダンジョン内で戦うのに、プラーネだと厳しいと思うんだ。
これで俺が『人形遣い』だったら良かったんだろうけど、『竜召喚士』だからね、プラーネの性能を引き出しきれないよ」
こういう時は更に空気を読まずに、感情論ではなく実益・実利だけで話を進めるのが正解だ。ちなみに服の場合は、困った時はエロい方を選び、エロ目的で選んだと言えば逃げる事が可能だ。逃げ切れない相手も中にはいるけど。
とにかく、何らかの理由に基づいた選択であることを説明し、相手が感情論で認めたくないと思っている事を認めさせないといけない。中途半端なことを言ってしまうと「詰む」ので、できるだけ理由は簡潔な方が望ましい。
が、ここで俺は地雷を踏んでしまった。
「……マスター、やはりホムンクルスではお役に立てませんか? 力不足でしょうか?」
俺の発言のせいで、桜花がさらに落ち込んでしまった。
『ホムンクルス』などの魔法生物は、『人形遣い』でしか真価を引き出せない。その事実を突きつけ、今の桜花が中途半端な役立たずであるかのように言ってしまったのだ。
俺は慌ててフォローの言葉を探すが、能力的に見れば言ってしまった言葉は大きく間違っていないので、ぱっと言葉が出てこない。
魔法生物を扱うなら、『人形遣い』以上の存在はいない。それ以外のジョブではどうしても中途半端になり他の召喚モンスターを選ぶ方が効率がいい。同様に、天使系なら『神官』、獣系モンスターなら『獣使い』、精霊なら『精霊使い』がそれぞれの得意分野になる。
ステータスな面を最初に強調してしまったおかげで、それ以外のことを言ったところで説得力が無いのも痛い。
こんな時はどうしよう?
付き合いの浅い相手であればしばらく時間を置くとか、会わない時間を作ればいい。
ただ、桜花はパーティメンバーだし、パーティから外したくないので会わない時間を作るというのは無理だ。そんな事はしたくない。
「ちょ、なんですか、マスター!?」
言葉に詰まったので、無言で頭を強く撫でる。セットされた髪がぐしゃぐしゃになるが、とりあえず撫でる。
慌てる桜花を無視し、次の奴に話を振ろう。
「ゴラオンはどう思う?」
「どっちでもいい。というか、俺にはよく分からねー。桜花やリーダーの判断に従うさ」
「ミレニアは?」
「私も、レンディアでいいと思います。総合的な火力を上げるなら、ドラゴンの同時召喚にMPを使った方がいいと思うのです」
桜花は髪を直しながら、二人の言葉に耳を傾ける。
その様子を見る限り、真剣にジョブチェンジ先の事を考えているようだ。
よし、これで誤魔化せた!
……たぶん。




