竜召喚士の北極星
「敵の砦、沈黙しました。門が開きます」
「凄まじいな、竜召喚士と言うのは」
「あの男は例外中の例外。普通と思ってはいけません」
「分かっているさ」
東方、中央政府が支配するとある砦にて。
西国の将軍は、目の前の光景に畏怖していた。
彼の目の前で何があったかと言うと、砦の上を飛んできたドラゴンから、巨大な岩が落とされたというだけだ。
砦にいる兵士たちの中には高レベルの、それこそレベル30の者もいただろうが、それでも岩をどうにかする事ができずに潰されている。
あの岩は、ただの岩ではない。
精霊術士が全力で強化した、『破城岩』と名付けられた特注品である。
ただの岩と思って対処するとその堅さに騙される事だろう。
そして、岩に対処する時間がほぼ無いというのもポイントである。
時速300㎞まで加速したドラゴンから落とされる岩は、その運動エネルギーを受け取っている。そのため、大火力を用意する間もなく岩が落ちてくるのだ。岩を破壊したところで破片が砦を崩すし、完全に防ぎきるには騎士系のジョブの持ち主が何十人と必要になるだろう。
砦に詰めていた侍のうち主要な者は生き返り事の次第を報告するだろうが、対策を取れるかどうかは分からない。
これを行った男は将軍に「こっちも加速まで時間がかかるし、出を潰すために早期警戒網を布くしかないね。それで駄目なら自分たちが攻める側に回る事じゃない? ほら、防衛側には脅威でも、攻撃側なら対処のしようはもっとあるでしょ?」と言っていた。
言っている事は理解できるのだが、それをできるかは別問題である。もしも自分たちがこれをやられたらと、将軍は頭を抱える事になった。
「しかし、意外と竜召喚士っていないもんだな。わりと人気のジョブだったはずだけど」
「継戦能力が低く初期が辛い、それが問題ではないでしょうか?」
「いやいや。初期がどれだけお荷物でも、後半戦を考えれば頑張れるんじゃない? 実際に俺はそうしたわけだし」
「そもそも、こちらの人はドラゴンを召喚できると思っていないか、召喚するための条件を満たしてはいないのではないでしょうか?」
「……ああ、それもプレイヤー専用ボーナスだったって訳か」
神様とお喋りしたあと、俺は東方で傭兵業をやっていた。
高速移動手段があるって事で、各地で転戦してはついでに商売を行い、わりと大きく儲ける事に成功している。
ルナティックな夜明けの「風の宝珠」のように、宅配や護送といった仕事に高速移動可能なドラゴンはとても有効だ。≪アイテムボックス≫持ちと組むと相乗効果で凄まじい稼ぎを叩き出す。
おかげでしばらく生活に困ることはないだろう。
そうそう。
俺は一度、東方の連中に殺されたことにした。俺を殺した事への報復を理由に、周囲が介入する理由を作ったのである。
グランフィストは自領の英雄を殺されたからと、教会も聖人を殺したからと、東方に「正式・正当な理由で」軍事介入を始めた。
俺に対する扱いや感情論は抜きにして、利用できるんだから利用してもらおう。
そのついでに、名前を「レッド=スミス」から「ポラリス」に改名した。ステータス上は変わらないけど。
ある意味「レッド=スミスはまだ生きている」と喧伝しているわけだが、実際にそのつもりなんだからこれでいいのだ。茶番に付き合わされる東方の連中が歯ぎしりするだろうからな。
俺の戦いはまだ続くが、この東方での戦いが終わればしばらくはゆっくりできるだろう。
その時は「竜召喚士の北極星」ではなく「北極星の竜召喚士」に戻り、冒険者や傭兵ではなく、もっと別の生き方を探すとしよう。
それぐらいのご褒美、あってもいいだろう。
導きの星は自由の風と共にある。




