東方より来たる
正直、甘く見ていたのだと思う。
日本人の、ジョブ解放の影響を。
1年ほど前、東方との交易路を新たに作り、そこにジョブ解放を商品とするヤマト村の手引きをした。
こうやって交易路新設に関わる事で、発案者として一定の利益を得ようと思ったからだ。
刀匠派遣の約束などがあったのも確かだが、それなりに他の利益の事も考えていたんだ。
ただ、その結果が、反響が大きすぎただけで。
まず、東方は中央と地方の統制があまりとれていない。
日本の鎌倉時代をベースにデザインされたからか、中央の力が弱く地方が独立独歩の気風を掲げている。
まぁ、その中央もそれなりに広いらしいけどね。
で、だ。
ダンジョンがあったのは中央で、最初に日本人が集められたのも、そこ。
中央は日本人だけができるジョブ解放を独占することで勢力を増し、地方を制圧していったわけだ。
そこに俺が提案した日本人派遣業と言うジョブ解放運動が始まってしまったため、今の東方は大混乱に陥っているらしい。
ヤマト村の連中から俺の情報が東方の中央に漏れ、俺は狙われるようになってしまったのだ。
東方の日本人も色々やらかしていたらしくてね? 蒸気船やら無線通信やらなんやらで、こっちとあっちの情報が行き来する事約半年。彼らにしてみれば怨敵である俺にニンジャ軍団が送られてきたのだ。
俺も無防備な性質ではないし、ギルドの宿舎には夜間の護衛なども置いている。
それにふくよか姫――じゃなかった、芙蓉姫からも「暗殺者が送り込まれます」という警告を貰っていたので、基本俺にべったりなティナなどにも守りに入ってもらっていたのだ。
今回は暗殺騒動を未然に防げたが、これから何度もあるとなると、それは面白くない。
暗殺者に怯えながら暮らすのは御免だし、それは俺の望む平穏な生活ではない。
確かにヤマト村の人間を送り込んでジョブ解放というレアな切り札をコモンカード並みに普及したものへ落とし込んだのは俺の責任だが、そんな事で暗殺されてやる義理も義務も無い。
確かに東方は戦国時代に突入したかもしれないが、そもそも中央が地方を力で押さえつける統治をしていたのが祟っただけだろう。パワーバランスを崩しただけの俺は悪くないと言いたい。
と言うかね。
日本人が他国にいて、日本人を独占できてなくて、他国と交易をしていて。
この結果が想像できないって時点でアウトだと思うぞ。
西国の芙蓉姫が中心になって動きはしたが、勝手に日本人が流れてくる事もあるだろうし。
支配者としての器を持てなかった統治者や偶然訪れる日本人に備えてなかった連中が悪い。
とまぁ、「俺は悪くない!」とみっともなく主張しておこう。
主張するだけならタダだし。
基本、俺は平和にのんびりと文明的に暮らせればそれでいい。
コソコソするのは嫌だし、田舎で貧乏暮らしをする気も無い。
今は準備が整っていないから逃げ隠れはするけど、まだここでやりたいことはいっぱいあるので、必ず戻ってくる。
せっかく作り上げた拠点を放棄する気は無いのだ。
暗殺者を送り込んだ東方の中央政府には返礼をしなくちゃいけないし、まだまだ頑張らないといけないみたいだね。




