明日はいい日
領主の方は特に問題なし。
テミスも何かあったという感じではなく、相川らはいったい何を思って凶行に及んだのかは全く分からなくなった。
他に協力者がまだいて、そいつが俺の知らない所で利益を上げたのだろうか?
兵士に出た多少の被害はそのままにされるけど、ジョンは蘇生されたし被害はあまり大きくない。
基本、戦いは数を揃えて質を高め準備をしてた方が勝つのだし、相手は高レベルで召喚魔法や俺たちの知らない何か別の魔法を使っていたけど、たった3人で襲ってきたのだから勝つのは当然だ。英雄と言えるレベル30を動員した俺たちの勝利は不思議な話ではない。
そう考えると「英雄」ってのもずいぶんデフレしたよな。俺たちのレベルがインフレしたでもいいけど。
これからはレベル30が珍しくない世界になるのかね?
分からない事が多く残ったが、俺達は生き残り、相川達は死んだ。
また生き返ってくるかもしれないが、それでもその時はその時だ。この世界はそういうものだと諦めるしかないね。
その時までに仲間を増やして返り討ちにしてやろう。
なお、今回の件に関して王都には俺達がアンデッドだった兵士に襲われたって説明してあるけど、兵士が殺されたって事で文句を言うというか、主犯の俺を差し出せという連中が居るらしい。
領主側にしてみればそんな事をすればその後の統治に響くから、王都からの要求を突っぱねた。
もしも王都の要求を呑んだ場合、領民から「この領主は弱腰だ」と馬鹿にされ、税金などを取り立てられなくなるのだ。強気な姿勢を見せて毅然としていなければ領主の権威は地に落ちる。
俺達がどうにかした兵士が全員アンデッドだったことは、冒険者一同と生き残った兵士が証言しているので疑いようが無い。そして王都からの要求が来る前に冒険者たちは自分たちの英雄譚を吹聴して回っていたので、領民のほぼ全てが今回の騒動の真相を知っているため、今更誤魔化す事も出来ないしな。
付け加えるなら、回収したはずのマジックアイテムを相川が持っていた事が大問題になったため、俺の引き渡しを要求する勢力はまだあまり強くないと思われる。
今のところ領主が俺をどうこうするといった気配は無く、王都も一枚岩ではない。
だから俺の身は安泰のはずだ。
終わったことは終わった事として、俺達は“次”へと進む。
事件から数日経てば死んだままの奴以外は元通り。俺の周りは大丈夫。
相川達のテロって事でまた病気用のウィルスをバラまかれたんじゃないかと心配していたけど、そういった話も無い。
事件の記憶が残っていても日々の忙しさに考える暇を貰えず、忘れるのではなく、悲しい事を考えずに生きていくことになる。
被害があったとしても、その損失を埋めなければ生きていけないのだから、生きる事を選んだ人にとってはしょうがない事なのだ。
俺達はふと立ち止まった時に過去を振り返るぐらいでちょうどいい。
だから、だ。
過去を断ち切りグランフィストを逃げるように去るのはそこまで悪い事じゃないと思う。
あの件について、俺に責任はあっても義務はないと思うし。




