状況整理
「は? いや、だって……」
俺の言葉にバランはすぐに答える事が出来なかった。
バラン自身、なんで相手の言葉を信用したのか分からなかったのである。
「催眠か暗示か。精神干渉系の能力か。厄介だな」
このことから考え付くのは「自分の言葉を信じさせる」種類の精神干渉。
TCGの時にあってTRPGの時に無かった魔法の中には≪ヒュプノシス≫という、相手を行動完了にするものがあったのを思い出した。
この世界はTRPG的だと思っていたがTCGの設定も混ざっているようなので、俺の知らない、パッと思い出せないような魔法もあるのだろう。
TCGの時のカードの種類って、数千あったからな。TRPGのほうは200ぐらいだからある程度は覚えているけど、そっちは記憶があいまい過ぎるしそもそもメモなどを残してないからな。対策をしようにももうどうにもならない。
ここは未知の脅威に対策することをすっぱり諦めて、やられたことを繰り返させないようにするだけでいいだろう。変に意識するとそれが隙に繋がるからな。
思考の泥沼にはまって動けなくなったバランは、まだ他にも仕込まれている可能性があるので戦力外と認定し、まだ存在する敵について考える。
まず、今回の敵は相川らの一派らしい。ミレニアの妖精からその情報が入ってきた。
そしてあと一人はいるのが確定している。
どんな能力を持った奴かははっきりしないけど、バランに精神干渉を仕掛けてきた奴だ。見た目は60歳ぐらいの爺さんらしいが、病気騒動の時に相川と一緒に捕まった老人がいたというし、たぶんソイツだ。
で、俺たちが倒した女がいて、これで三人。
他にもいるかもしれないけど、確定情報はここまで。
生きている男二人をどうにかするのが次のミッションだな。
相川は領主の館を襲撃したが、領主は避難が済んでいて無事だった。テミスなど子供や奥さんらも以下同文。
逃げられたことを知った相川は姿を消したのだが、その足取りは掴めていない。
正直、人数差がそのまま戦力差になるから正面から戦う事になったら絶対に負けないんだけど、こうやってテロをされると高レベル冒険者ってのは本当に厄介だ。
しかも相手は俺たちでは対抗できない、王国の国宝である強力なマジックアイテムを装備しているという。
戦闘能力の差は人数でカバーできるけど、隠密能力や逃走能力を強化されるとかなり厄介である。本当に羨ましい。
老人の方は話を聞いたってだけのバランはその事を誰かに話したって事も無いから、老人の捜索は行われていない。
こちらは衛兵に連絡し、早急に動いてもらいたい。
その他の兵力があるかもしれない事については、今は考えない。しばらく衛兵や兵士が厳戒態勢を敷くぐらいしかできる事が無いからな。考えるだけ無駄だ。
そうなると俺たちがやるべき事は、グランフィスト内部で捜査の手伝いをするか、ヤマト村の様子を確認するかと言ったところだろう。
あと、ここで手を引くというのも選択肢にあるな。治安維持は俺たちの仕事ではないから、ここで手を引くのも間違いではない。
ま、何はともあれ、一度衛兵たちのところでアゾールさんとかと相談する方がいいか。今回やった制圧作戦は自衛の範囲だからいいけど、それ以上は越権行為だ。
民間組織が勝手に動くと現場を混乱させるだけだからな。やっぱりすぐに動くのは無しだ。
事件解決のためとはいえ、勝手に動くとあとでしょっ引かれる可能性も無いわけではない。
俺は主導権を放棄して領主側の判断を仰ぐことにした。




